前2回で、母子融合状態の家族システムにおける母子関係と父子関係について考察しました。今回は母子融合状態の家族システムにおける夫婦関係について考えます。
母子融合の背景
母子融合という母子関係はなぜ生じるのでしょうか?
背景にあるのは、多くの場合、夫婦関係の課題です。母子融合・父子遊離という家族構造の場合、たいていの場合両親の夫婦関係には特に課題が内容に感じられます。夫婦喧嘩もほとんどなく、お互いに特に不満もなく過ごしています。当事者である両親もそういう風に認識していることがほとんどです。
しかしながら、よくよく観察してみると、夫婦間の感情的交流が希薄であると感じられることがあります。以前(2024年9月号)の記事で説明した「夫婦感情遊離」という状態です。つまり、実は潜在的に高い緊張関係があるのだけれど、感情的な交流を避けることにより、表面的に平穏な状態を保っているということです。
夫婦感情遊離
夫婦感情遊離の状態では、父親、母親のどちらも情緒的安定を保つことが難しくなります。そして、その傾向は女性である母親が特に顕著になります。女性は本来の特性として関係志向であり、きわめて親密な関係の他者を必要とする傾向が強いからです。
これに対して男性はもともと目的志向なので、仕事などに熱中することで安定を保つことが比較的容易です。
したがって、母親は夫との間に親密な感情的交流が保てない状態になると、他の関係において強い感情的交流を求めるということになります。ほとんどの場合、それは特定の子どもということになります。
夫婦感情遊離が生じる背景も様々です。よく言われるように、性格的なずれによるすれ違いが重なることによることもあるでしょう。単にコミュニケーションの不足や不具合によることもあると思います。多くの場合、その背景には、家族全体の資源不足が関わっていることが多いと思います。
円環的因果律
ここで改めて母子融合状態の家族システム全体について見直してみたいと思います。母親、父親、子どもの三者の関係はそれぞれ「母子融合」「父子遊離」「夫婦感情遊離」という状態にありました。
では、「母子融合」「父子遊離」「夫婦感情遊離」の3つの関係性のうち、どれが最も根本的な原因になっているのでしょうか。
上記の流れからすると、夫婦感情遊離のために母子融合が生じていると解釈されそうです。では父子遊離はどうでしょうか。
母子融合が生じている状態で父親が子どもとの関係を強化しようとすると、母親からの強い反発が生じると考えられます。それも無意識の反応です。母子がいわば一体の状態になっていて、父親と母親は潜在的な葛藤状態にあるわけですから、父親が子どもとの関係を強化しよとするということは、母親との関係を強化しようとすることと同義になります。それは、感情遊離によって表面的な平穏状態を作り出すことに成功していることを破壊することになります。
したがって、母子融合状態にある場合、父親が子どもとの関係を強化することは極めて困難になります。母子融合という状態が父親遊離という状態を維持させていると解釈することが可能です。
そして、母子融合・父子遊離という状態により夫婦感情遊離の状態も維持しやすくなるという結果が生じます。
まとめると、「母子融合」「父子遊離」「夫婦感情遊離」という3つの関係は、お互いが原因であって結果であるという関係性にあるということになります。どれが根本的な原因であると特定することできないということです。このように、原因と結果が円形になっている因果関係のことを「円環的因果律」と呼びます。
母原病と父原病
だいぶ古くなりましたが、80年代に「母原病」と「父原病」という言葉が流行したことがありました。子どもの抱えるさまざまな問題の原因が母親にある、もしくは、父親にある、という意味です。確かにそれぞれの関係性のみに限定して考えるとそれは正しい主張と言えます。しかし、家族システムが円環的因果律によって機能しているという事実から考えると、母原病・父原病というとらえ方は、現実に起こっていることの片面しかとらえていないと言えます。
円環的因果律を基にして考えた場合、家族システムの問題の原因が母親もしくは父親にある、という形で原因を固定化することは、問題が生じるしくみを固定化し、問題解決をかえって困難にしてしまうと言えます。