前回、子の損傷を引き起こすしくみとして「母子融合」について説明しました。母子融合は母親と子どもとの関係に関する事柄ですが、今回は母子融合状態にある家族システムでの父子関係について考察します。
サユリさんの事例
前回紹介した不登校の事例(実際のケースをもとに再構成した架空の事例)をもとに検討します。内容を簡単に振り返ります。
サユリさんは中学2年生の女子です。とても素直で明るく、同級生からも好かれ、先生たちからも人柄の良さを高く評価されるような生徒でした。
ところが、2学期の後半になって不登校状態になりました。お母さんが軽くパニックを起こしているかのような反応が特徴的で、そのことから「母子融合」状態になることが推測されました。
一方でお父さんは比較的落ち着いている様子でした。「理由は不明だけれど、子どもが登校できないと言っているのでしばらく様子を見たいと思います。」と冷静な対応をされていました。
父子遊離
この場合、お父さんの対応は冷静に見守る姿勢ということで、不登校への対応としては良さそうに見えます。しかし、父子関係をよく観察すると、感情的な交流が希薄な印象が浮かび上がってきます。
前回、母子融合状態とは、母子の心理的境界が「あいまい」な状態であると説明しました。これに対して父子関係は心理的境界が「固い」状態にあると推測されます。本来もう少しあってしかるべき感情的な交流が希薄な状態とも言えます。この関係は「母子融合」に対して「父子遊離」と表現されます。
社会性の発達不全
母子融合では、心理的境界があいまいなためにストレスを過度に共有してしまい、相乗効果によってストレスを高めてしまうという影響があると説明しました。
では、父子の遊離状態は子どもの発達に関してどのような影響をもたらすでしょうか。
思春期における子どもの発達課題は、親の心理的保護下から少しずつ離れ、社会的な自律を果たしていくということです。言い方を変えると社会性の発達ということになります。特に母親の心理的保護から社会に出ていくということで、第二の出産となぞらえることもあります。
この社会性の発達という作業を行うために重要になるのが父親との関係です。思春期において、子どもは父親の持っている社会性をモデルとして取り入れることにより社会性の発達という課題を達成できると考えられます。
父親と社会性
では、社会性の発達には、母親ではなく父親の役割が大きいのか。これは、社会というものが主に父性原理で構成されていることが主な要因だと考えられます。社会は「責任と権利」「相互の契約」「ピラミッド構造」などの原理で成り立っています。これは父性的な原理といえます。母性原理とは相手を優しく包含し守るような原理ですが、父性原理は秩序をつけ切り離すような原理です。
加えて言えば、父性と母性は、男性と女性がもともと持っている特質だと考えられます。したがって、女性が父性原理を発揮するのはやはり限界があるのではないでしょうか。
以上のことから、思春期に子どもの社会性発達という課題を達成するのは、父親との関わりが非常に重要になってくるということです。
母子融合・父子遊離と不登校
父子遊離の状態ではこの作業を行うことが困難になります。年齢相応の社会性の発達が阻害されれば、子どもが学校という社会に適応することが困難になるということです。それが不登校の大きな要因の一つになると考えられるわけです。
このように、多くの場合、母子融合の家族システムにおいては、母子融合から生じるストレスの過剰負担と、父子の遊離状態から生じる社会性の発達不全という2つの要因が不登校の直接の原因となっていると考えられます。
父性と父親
では、さまざまな事情で父親が身近におられない場合はどうすればいいでしょうか。子どもの社会性のモデルとなるのは父親だけではありません。身近な男性であれば父親の役割を代替することができます。例えば「おじいさん」とか「おじさん」などの親族でも父親の役割をある程度果たすことが可能です。ですから、父親が不在の場合、思春期になったら、誰か父親の替わりをできる方をみんなで考えて、その方が子どもとの交流を強化することで子どもの社会性発達を期待することができます。