前回は、家族システムにおいて資源が不足した場合に4つの反応パターン(①配偶者不適応、②夫婦衝突、③夫婦感情遊離、④子の損傷)のうち、②夫婦衝突について説明しました。今回は、④夫婦感情遊離について検討します。
夫婦衝突と夫婦感情遊離
前回の最後に書いた部分です。
家族システム全体の資源不足によって夫婦衝突(夫婦喧嘩)が起こりやすくなります。程度の強い夫婦喧嘩を繰り替えしていると、お互いだんだんそれが嫌になってきます。そうなってくると、次の段階は、お互いに極力感情的な交流を避けて生活をする、という形になりがちです。感情的交流を避けていれば、少なくとも喧嘩にはなりにくいからです。この状態が夫婦感情遊離ということになります。いわゆる「家庭内別居」という状態だと考えてよいのではないでしょうか。
夫婦感情遊離からの代替
では、夫婦がお互いに感情的交流を遮断することにより喧嘩を回避すればそれで家族システムが安定するのかというと、多くの場合それではすみません。夫と妻のどちらにしても、それぞれ心理的な安定を図る必要があるからです。
それまで、夫婦が情緒的な結びつきによって安定していた部分があるわけですから、それができなくなるということは、他の手段が必要となるということです。
例えば、男性の場合は、仕事などに熱中するということで安定を図るという場合があると思います。以前の通信にも書きましたが、男性は目的達成というものに喜びを感じる傾向があるからです。いわゆるワーカホリックという状態とか、仕事の成果を出すことにひたすら熱中するとか、昇進することに高い価値をおいて努力するとか、です。
また、仕事にあまり喜びを見いだせない場合には、趣味に熱中するというようなこともあるでしょう。仕事も趣味も、一定の目的を達成するということにおいては同じだからです。
女性の場合は、目的志向というより、関係志向です。したがって、仕事においても周りの人との良好な関係を維持し、一緒に働く喜びを感じることが重要なようです。目的達成は、それによって仲間と喜びを共有できるという側面に重点が置かれている気がします。そういう形で仕事に力を入れるということはあるかもしれません。
また、仕事以外でフランクに楽しめる交流の場に参加することもよくあると思います。例えば、いろいろな習い事や趣味を同じくする人たちのサークルなどです。最近では「推し活」という言葉もあったりします。推しに対して一定の感情を投影すること自体が喜びになりますし、推しを共有できる人たちとの交流も楽しい場となるでしょう。
また、よく男女ともによく使われる方法は、配偶者以外の異性と親密な関係をつくることです。いわゆる浮気です。もともと夫婦とは、異性に対する感情を満足させるむすびつきであるわけですが、これがもっとも直接的な方法ではあるといえます。
資源供給から考える
以上のように、仕事、趣味、家庭外の交流の場、浮気など、夫婦感情遊離によって生じるマイナスを補充する試みがあります。
夫婦が、理性的にも感情的にも信頼関係を構築できれば、そこで新たな資源が生じます。つまり、夫と妻がそれぞれ保有している単独の資源の単純な和よりも大きな資源を得ることができるということです。単純に数字で表すと、1+1 = 2+αということになります。
逆に夫婦衝突や夫婦感情遊離という形で夫婦の信頼関係構築に失敗すれば、逆に資源がマイナスになります。1+1 = 2-αということになります。したがって、減少した資源を何とか補充しなくてはならなくなります。上にあげた方法は、それも家族外から資源を導入しようとする試みと見ることが可能です。
しかし、夫婦感情遊離の程度がそれほど強くなければ、それらの方法でなんとかバランスが取れるという場合もあるかもしれません。しかしどの方法にもないナス面があり、多くの場合それだけでは、バランスが取れなくなってくることが多いようです。
例えば、仕事に熱中したとすると、家族のことはどうしてもおろそかになり、夫婦感情遊離が強化されやすいという面があります。そうなると、ますます家族システムが不安定になるでしょう。特に浮気は、マイナスの要素が大きく、結果的に家族システムの崩壊につながりやすいと思います。
子の損傷
以上で説明してきた家族システムの反応は、いずれも両親(夫婦)の段階にとどまる問題です。しかしながら夫婦感情遊離において、外部資源を導入する試みをしたとしても、どの方法にもマイナス面があり、家族システムを本当の意味で安定させることは困難です。
したがって、多くの場合、子どもを巻き込んで家族システムを安定させるということが起こりやすくなります。それで生じるのが子の損傷です。子どもの教育においてこれが最も問題になるところになります。次回からは子の損傷について検討していきたいと思います。