とらすと通信

とらすと通信2022年12月号「ポジティブ行動支援(4)スクールワイドPBS」

前回までは、特定の子ども「個人」を対象にしたPBS(ポジティブ行動支援)の取り組みについて説明してきました。今回から「クラス全体」や「学校全体」を対象にしたPBSについて書きます。

とらすと通信2022年12月号「ポジティブ行動支援(4)スクールワイドPBS(SWPBS)」

前回までは、特定の子ども「個人」を対象にしたPBS(ポジティブ行動支援)の取り組みについて説明してきました。今回から「クラス全体」や「学校全体」を対象にしたPBSについて書きます。

スクールワイドPBS

個人対象ではなく、クラス全体を対象としたPBSが「クラスワイドPBS」、学校全体を対象としたPBSが「スクールワイドPBS」です。どちらも、個人を対象にしたPBS(≒応用行動分析)をクラスや学校と言った集団に拡大適用するもので、基本的発想は同じです。ABC分析の枠組みを使います。目的は、「望ましい行動を増やす」ということです。

先行事象【A】→行動【B】→後続事象【C】

まず、先行事象【A】として、「望ましい行動のリスト」を作成します。作成されたリストは一覧表で掲示するなど、子どもたちにわかるよう示します。それによって行動【B】が変化することを期待します。行動【B】が望ましい方向に変化したら、それを肯定的に評価(ほめる)して強化します(後続事象【C】)。

望ましい行動のリスト

もう少し細かくみていきます。

望ましい行動のリストを作成する方法はいくつか考えられます。大きく分けると「教師主導で作成」する方法と「子ども主導で作成」する方法があるようです。

子どもたちが積極的に取り組むことを期待するならば、子ども主導で作成させた方が効果が高いと考えられます。しかし、子どもだけで作成させるのは困難な場合もあると思います。それは、子どもたちの判断力がどのくらい成熟しているかなどによるでしょう。そういう場合には教師主導で作成することが必要と思います。また、最初に子ども主導で作成したリストを教師が補足する形で追加修正などを行うハイブリッドな形もあると思います。

また、学校生活全般についての望ましい行動のリストを作成することもできますが、特定のテーマ(例.あいさつをする)に限定して取り組むこともできるようです。

望ましい行動のリストの整理方法

学校生活全般について望ましい行動のリストを作成する場合には、かなり多くの項目がリストアップされることになります。わかりやすく整理するために、2つの指標軸を使って分類するとよいようです。

例えば、一つの指標軸を、内容から「学習」「友達」「生活」などに分類し、もう一つの指標軸を生活場面から「授業時間」「休み時間」「掃除時間」「給食時間」などに分類するわけです。2軸を使うことで2次元の表ができますので、リストをわかりやすく整理できます。

例えば、「教科書とノートを机の上に準備する」というリストは「授業時間」の「学習」に分類されるでしょうし、「他の人が発表しているときは静かに聞く」というリストは、同じ「授業時間」の中の「友達」に分類されるでしょう。

望ましい行動の強化

望ましい行動のリストを提示することにより、子どもの行動が望ましい方向に変化したら、その行動が続くように強化します(後続事象【C】)。具体的には「ほめる」ということです。

これもいろいろなバリエーションが考えられます。まずほめる主体ですが、教師が子どもをほめる場合と、子ども同士でほめる場合があるでしょう。

また、ほめる内容の伝え方ですが、言葉で伝える場合と、文章をカード(例.Good Behavior Card)に書いて渡すなどの形で伝える場合も考えられるようです。

行動変化の記録

PBS(ポジティブ行動支援)では、行動の変化を記録し、データ化して効果を確認することを重視しています。このことによって、取り組みの効果を客観的に把握し、効果が出ていない場合には取り組みの修正をしてより効果的な取り組みになるよう改善していくとのことです。

 

以上が、スクールワイドPBS(SWPBS)の大まかな内容です。一応内容をまとめて書いていますが、筆者にはSWPBSの実践も、学校で取り組みのサポートも行った実績がありません。詳しいことは「ポジティブ行動支援ネットワーク」のホームページなどから情報を得ることができます。実践論文や参考文献も紹介されていますので、興味をお持ちになったらぜひ参考にしてください。

ただ、いろいろな実践例を調べてみて確かに効果的な方法論であるのではないかと思っています。現場で色々な教室での行動観察などをさせてもらう中で「望ましくない行動を減らす」という従来の方法だけでは学級経営が難しくなってきているということを実感しています。そういう意味でスクールワイドPBSは新しい生徒指導の方法論として注目すべき手法と考えます。