とらすと通信

とらすと通信2022年11月号「ポジティブ行動支援(3)」

ポジティブ行動支援の3回目です。今回は「後続事象【C】」のコントロールを中心にした取り組みについて説明します。

とらすと通信2022年11月号「ポジティブ行動支援(3)」

授業中の離席が目立つ小学1年生の事例

9月の通信で紹介した「授業中の離席が目立つ小学1年生」の事例を再度取り上げます。C君としておきます。

C君は1コマの授業中に数回立ち歩きをしてしまう状態でした。先生が注意すると席に戻りますが、しばらくするとまた立ち歩きをします。注意して観察すると、先生がC君への注目をやめてクラス全体に向かって説明をはじめるとしばらくしてC君の離席が起こす傾向があるように思われました。離席という行動によって「先生の注目を得る」ことができるというメリットが離席という行動を強化していると推測されました。図式化すると次のようになります。

「クラス全体への説明(先行事象【A】)」→「離席(行動【B】)」→「注意される(注目を得られる)(後続事象【C】)」

望ましい行動を増やす試み

この事例について、SCとして担任の先生から相談を受けましたので、どういう方針で取り組むかについて話し合いました。提案したのは、離席という「望ましくない行動を減らす」ように働きかけるのではなく、「望ましい行動が増える」ように働きかけることです。

この場合、具体的には「座って授業を受ける」という行動を増やすように働きかけることになります。「離席」と「座って授業を受ける」という行動は両立しないので、「座って授業を受ける」時間が増えれば結果的に離席が減少することになります。

まず、担任の先生とC君との話し合いで、今後の行動目標を設定してもらいました。この場合「座って授業を受ける」ということを目標にしました。その際、「座って授業を受けたほう落ち着いて勉強でき、勉強もよくわかるようになる」など、それを目標にする理由(メリット)をしっかり確認し、本人に理解してもらいました。この行動目標が先行事象【A】になります。

次に、先生と本人で、目標がどのくらい達成できたかを毎日放課後に確認をします。具体的には「頑張りノート」をつくり、その日の各授業について、どのくらい目標が達成できたか本人と先生で一緒に評価して1~3の3段階で数値化することにしました。そして、2と3のところには先生が丸、二重丸、花丸などで評価を記入することにしました。同時に、少しでも改善が見られた場合には、本人の努力を口頭でもしっかりとほめてもらうことにしました。

図式化すると次のようになります。

「行動目標確認(先行事象【A】)→「座って授業を受ける(行動【B】)」→「ほめられる(後続事象【C】)」

取り組みをはじめて1カ月くらいして行動観察のため再度授業を見学させていただきました。その時にはほとんど離席をすることなく、落ち着いて授業を受けているC君の姿を見ることができました。以前の様子からは考えられないような行動の変化でした。

記録をとることの重要性

C君の事例では「頑張りノート」を作って授業の様子を毎日記録しました。ポジティブ行動支援では、漠然とほめるのではなく、このように、行動変化を目に見える形で記録をしていくことが非常に重要とされています。記録をつけることにより、本人も支援者も行動変化を明確に確認することができ、そのこと自体が本人にとってのやる気につながります。また、行動があまり変化しない場合には取り組みの見直しが必要ということであり、そのことも明確に示されるので早い段階での改善を行うことが可能になります。

後続事象【C】のコントロール

このように、ABC分析をしっかりと行った上で後続事象【C】をコントロールする取り組みは、特に望ましくない行動が繰り返される場合に非常に高い効果を持っています。また、指導する側にとっても、「ほめる」という行動は「叱る」という行動に比べて感情的にも穏やかになり浪費するエネルギーも非常に少なくて済むというメリットがあります。ABC分析の手法は、発想さえ明確に理解できれば比較的容易に実行できます。今後特に学校現場においてこの手法が広がることを希望したいと思います。