とらすと通信

とらすと通信2022年7月号「子どもの自己資源(6)ー家族の資源バランス回復」

前回は、甘えが満足されていない子どもへのアプロ―チとして母子の交流強化を提案する際、家族の資源バランスがとれているかアセスメントする必要があるということを書きました。今回は資源バランスがとれていない場合の提案のしかたについて考察したいと思います。

援助資源マップ-子どもの自己資源(6)家族の資源バランス回復

母親としての努力をねぎらう

子どもが課題を抱えている家庭では資源バランスがぎりぎりということがよくあります。

資源バランスがぎりぎりの状態で生活されているお母さんは心理的に何とか自分をたもっているような状態です。母子の交流強化を提案するということは、そういう状態のお母さんに対してさらに負担を増やすことになるわけですから、提案は慎重に行う必要があります。

第一に必要なことは、お母さんの努力を率直に認めてねぎらうことだと思います。たとえば、「仕事や家事に加えて、まだ小さいきょうだいの面倒も見ておられるんですね。同じ立場だと考えても自分に同じ事ができる自信はありません。本当にすごいことだと思います。」といった言葉です。

この場合、表面的な言葉だけ使っても相手には響きません。本当に自分がその立場になっていることを想像してどれくらいのことができるか考えてみれば、自然にこういう言葉が出てくると思います。支援者側の心からの言葉こそが強く響くものと思います。

母子交流および資源バランスの回復の重要性の説明

その上で母子交流強化の重要性について説明します。さらに、母子交流が効果を上げるためにはお母さん自身の気持ちのゆとりが重要であること、そしてそのためには家庭の資源バランスの回復を図る必要があることを説明します。

重要なポイントは、「これ以上頑張る」のではなく、「工夫によって資源消費を減らす」ことです。そして節約できた資源を子どもとの交流強化に回します。この点をしっかり理解していただく必要があります。

資源バランスの回復のための提案

資源バランスを回復させるための方策は大きく2つになります。

①    家庭外からの資源導入

祖父母世代からの援助が受けられないか、教育機関・医療機関・相談機関などの社会資源の援助が受けられないかということを検討します。

経済的な資源として、子育てなどに対する公的援助などが考えられます。

②    資源消費の減少

 大きなものとしてはやはり仕事があります。もし一時的にでも仕事量を減らせるようであれば家庭外に持ち出す資源を減らすことが可能です。ただ、仕事量の減少は経済収入の減少にも直結しますので、その点との兼ね合いをよく検討する必要があります。

 家事労働も資源消費としては意外に大きなウェイトを占めているものです。経済的なゆとりがあれば、全自動の家電などの導入も検討できるでしょう。家事労働で一番負担が大きいのはおそらく料理だと思います。これも出来合いのおかずを利用したり、デリバリーを利用したりすることが可能です。毎食でなくても週に数回そういう形で料理にかけている負担を減らすだけでもかなり資源消費を減らすことが可能だと思います。

保護者と一緒にプランを考える

資源バランス回復の提案は家庭内の問題に大きく介入することでもあります。やはり慎重に進める必要があります。

まずは、資源バランスを回復させるためにできそうなことがないか、保護者に聞いてみるのがよいかと思います。結果として保護者自身からいくつかプランが出てくれば、それを一緒に検討することができます。

保護者からプランが出てこなければ、こちらからいくつかプランを提案することになりますが、家庭の状況や保護者が大事にしている考え方をよく知ったうえで提案することが必要です。例えば「食事は必ず自分が作る」というこだわりを強く持っておられるようであれば、そこには触れない方が無難です。できるだけ受け入れやすいと思われるプランから提案していく必要があります。

「あくまで提案」であることを強調して、受け入れや実行が難しいようであればすぐに別のプランを提案します。そして最終的には最も取り組みやすそうなプランについて「一緒に検討する」という協同作業ができれば実効性のある取り組みができやすくなります。