とらすと通信

援助資源マップ ―子どもの自己資源(4)

前回、愛着障害について書きました。今回は軽度の愛着の課題について考察したいと思います。

とらすと通信2022年3月号「援助資源マップ ―子どもの自己資源(4)」

「甘え」の満足

いわゆる「親子の絆」である愛着が十分に形成されることにより世界と自分に対する信頼感・安心感が形成されます。愛着が十分形成されないで成長した結果が愛着障害です。潜在的に常に強い不安に苛まれる状態であり、ある意味では発達上の課題から生じる最も重たい問題と言えると思います。

ただ、愛着障害と判断されるような重篤な状態ではなく、「軽い愛着形成の不全」から生じていると思われる問題はより頻繁に観察されます。愛着形成の不全というより「甘えの満足が不十分」な状態と理解した方がいいかもしれません。

例えば次のような事例があります。

例1)小学校低学年で登校を渋る児童が「自分が学校に行っている間にお母さんに何かあったらどうしようと心配になる」と語る。

例2)学校では何事もきちんと取り組んでいて年齢より大人びて見えるが、家に帰るとわけもなくイライラして家族や物にあたったりする。

例3)昼間や夜に部屋に一人になることを極度に怖がる。

例4)非常に多くのクラスメートと交流しているが「特に仲が良い」と言えるような関係はつくらず浅く広くしかつき合わない。浅いつきあいなのに比較的トラブルも起こりやすい。

もちろんこれらの事例の背景がすべて「甘えの満足が不十分」という問題から生じているとは限らず、他の要因による場合も多々あります。ただ、いろいろな面からアセスメントをしてみると愛着の問題が根っこにあることがあります。つまり、「基本的不安感」があり、それが上記のような形となって現れているということです。

臨界期と「甘え」の満足

発達心理学には「臨界期」という考え方があります。各発達段階ごとに習得すべき課題があり、その習得には時間的制限があるという考え方です。つまり臨界期を超えるとその課題の達成が難しくなるということです。

愛着形成の臨界期がどのくらいなのかというのは難しい問題ですが、0歳~3歳くらいがもっとも重要な時期であることは間違いないでしょう。では3歳を過ぎると愛着形成は不可能になるのでしょうか?

私の経験では、愛着形成のやり直しが不可能であるとは思えません。もちろん年齢が上がるにつれてやり直しは難しくなっていくと思います。しかし、学童期くらいまではある程度やり直し可能ではないかと思います。場合によっては思春期以降も可能なのかもしれません。特に上記のような「甘えの満足が不十分」というようなレベルであれば、十分回復可能だと思っています。

母子の交流強化

その場合、やはり重要になるのはお母さんによる子どもへのアプローチです。深刻な愛着障害を生じるようなケースだとお母さんが取り組める状態ではないことがほとんどです。しかし「甘えの満足が不十分」というレベルであれば、たいていの場合お母さんが十分取り組めます。

このようなケースでお母さんと話合いをしているときよく聞かれるのは、お母さん自身からの「幼少時十分かまってあげられなかった」という言葉です。例えば、「その時期仕事が忙しかった」「経済的理由で余裕がなかった」「家庭内のトラブルなどがあり大変だった」など様々な理由が語られます。そして「もう取返しがつかないのではないか」という不安を抱え罪悪感を抱いておられます。

そこで、取返しがつかないということはないことを説明し「甘え足りなかった分を今からやり直せば大丈夫だと思いますよ」と伝えます。取り組みのポイントとしては、子どもとお母さんが一対一で交流できる場面をつくることです。2人だけで外出することなどを提案します。そうするとほとんどお母さんは安心されるようです。そして取り組みを始めてもらえます。今までの経験では、だいたい1~数カ月で落ち着いてくるようです。

どのケースの場合もそうですが、もちろん原因が軽度の愛着形成の問題でなければこの取り組みは有効になりません。そういう意味でしっかりと情報を集めた上でアセスメントを行うことが最も重要になります。