とらすと通信

行動規範とストレスマネジメント(4)「善いことは善い・悪いことは悪い」

ストレスマネジメントに重要な行動規範として「悪口を言わない」「嘘をつかない」ということを挙げました。子どもに高いストレスマネジメント能力を身に着けさせるためには、これらの行動規範を身に着けさせることが重要ということになります。そのために大人がとるべき態度は「善いことは善い・悪いことは悪い」というメッセージを明確に伝えることだと思います。

とらすと通信2021年8月号「行動規範とストレスマネジメント(4)善いことは善い・悪いことは悪い」

教育における2つの考え方

従来の教育理論には大別すると2つの考え方があると思います。

一つは「子どもの心は白紙のようなものであり、教育とは白紙に大人が行動規範などの考え方を書き込むことである」という考え方です。

もう一つは「人は生まれながらに善悪の判断基準を持っており、教育とはその判断基準が自然発生的に/素直に発現し、行動上の規範として定着するように環境を整えることである」という考え方です。

私自身は二番目の考え方が妥当だと考えています。「人を許し思いやりの気持ちを抱くと幸福感が高くなる」というようなデータはその裏付けとなると考えます。

子どもに伝えるべきメッセージ

人は生まれながらに深いところで「悪口は言いたくない」「嘘はつきたくない」という気持ちを持っているということだと思います。そのため、悪口を言うとストレスが一時的に低減する一方で、長期的にみると心理的な葛藤にも陥るということでしょう。

子どもの発達を考えるとき、問題になるのは「生まれながらの善悪の判断基準が行動上の規範として定着するような環境」とはどういうものかということです。

それは、大人が、子どもに対して「悪口や嘘はよくないことだ」と明確に伝えることだと思います。もともと子どもの中には「悪口は言いたくない」「嘘はつきたくない」という気持ち(善悪の判断基準)があります。それをそのまま是認するメッセージを伝え続けるわけです。そのことで「悪口は言いたくない」「嘘はつきたくない」という気持ちがそのまま行動規範として定着していくものと思われます。

子どもの行動規範定着を阻害するメッセージ

ところが、一般社会には「誰でも本音では人の悪口をつぶやいている」「多少の嘘はつかないと生き残っていけない」「悪口も嘘もないというのは偽善だ」などというメッセージが溢れています。これらのメッセージは子どもの奥にある、生まれながらの善悪の判断基準をねじ曲がったものにしてしまう可能性があります。

また、近年は「ほめて育てる」という思想がことが主流になってきています。もちろん肯定的な雰囲気の中で子どもが育つことは最も重要なことです。しかし、悪口や嘘などの行動まで肯定したり、そのリスクを指摘することもなく曖昧にすませてしまうことは大変危険だと思います。

「善いことは善い・悪いことは悪い」というメッセージ

私自身の経験では「ほめて育てる」という思想のもと、善悪の判断基準をあまり示されない環境で育った子どもはやはり行動の基準がはっきり育たず、思春期に至ったとき周りとのトラブルなどが生じやすくなり、本人も周りも困ることが多い気がします。むしろ保護者が善悪の基準を厳しく提示して迫る子育てをされている家庭の子どもの方が、行動基準がきちんとしており、その後の人生をしっかり歩んでいけていると感じます。

まずは大人自身が「悪口を言わない」「嘘をつかない」など、自分の行動規範を再度確認することが必要と思います。そして、子どもには「善いことは善い・悪いことは悪い」と明確に伝えていくということが重要ではないでしょうか。