とらすと通信

「認知行動療法について(1)」

前回学校で使える認知行動療法の書籍を紹介しましたので,しばらく認知行動療法について書いてみたいと思います。

とらすと通信2021年1月号「認知行動療法について(1)」

感情と認知

認知行動療法は,認知療法と行動療法をミックスしたものです。このうち認知療法は,認知の修正を行うことで改善を試みます。鍵となるのは,「認知が感情を決定する」という発想です。

たとえば「いつもは既読がついたらすぐに返信を書いてくれる友達に,ラインでメッセージを送ったが,既読になったのに1日たっても返信がない」ということがあったとします。その時どのような感情が生じるでしょうか?人によって,「不安」「怒り」などさまざまだと思います。「特に何も感じない」という人ももちろんいると思います。同じ事象に対しての反応なのに,なぜ様々な感情反応のパターンが生じるのでしょうか?

それは,「ラインの返信がない」という事象をどのように認知するかによって生じる感情が異なるからです。たとえば「友達に嫌われたに違いない」と認知したら不安になるかもしれません。「既読をつけたらすぐに返信するのがマナー」という信念があったら怒りを感じるかもしれません。「たまたま忙しくて返信する時間がなかったのだろう」と推測したら特に何も感じず「そのうち返信してくれるだろう」と余裕をもって待っていられるでしょう。

認知の修正

このように,感情は,事象をどのように認知するかによって変化します。したがって,不適切な認知を修正することによって感情をコントロールすることがきるようになります。

では,不適切な認知とはどのようなものでしょうか?それは「事実からかけ離れた認知」といってよいと思います。例えば,「すべての人が既読をつけたらすぐに返信するべき」という強い信念を持っていたとします。しかし,既読をつけてすぐに返信する人もいれば,なかなか返信しない人もいます。結局のところ,いつ返信するかを決めるのはメッセージを送った相手が決めることであって,自分が決めることではありません。したがって「すべての人が既読をつけたらすぐに返信すべき」というのは事実とはかけ離れた認知と言えます。このような認知パターンを「すべき思考」と言います。この場合「既読をつけたらすぐに返信する人もいれば,そうでない人もいる。いつ返信するかは相手の決めることであって,自分が強制できるものではない」と修正すれば,返信が遅れても怒りを感じることはなくなります。

認知の歪み

事実からかけ離れた認知パターンを「認知の歪み」と呼びます。認知療法では,典型的な認知の歪みをおよそ10パターンくらいに分類し,その修正を試みます。

認知の歪みは,どんな人も程度の差はあれ持っているものだと思います。特に発達障害のある方は認知の歪みに陥りやすい傾向があります。例えば,「0か100か」という認知の歪みがあります。95点をとったのに「100点じゃないと意味がない!もう勉強しない!」と極端な行動になったりしがちです。

子どもたちの中には,このような認知の歪みがなかなか修正できず,苦しんでいる子がいます。そういうケースでは,認知行動療法によって認知の修正を試みることが重要になってきます。(次回に続く)