とらすと通信

資源不足が教育の混乱を招く

NPO法人教育支援ネットワークとらすと代表の豊永法教(亨輔)です。とらすと通信では,日々の教育活動に役立ちそうな情報を提供していきたいと思います。少しずつになると思いますが,よろしくお願いします。

とらすと通信 2018年1月号 資源不足が教育の混乱を招く

近年教育の現場がなぜこんなに混乱するようになったのか。大きな原因の一つは「資源不足」であると考えられます。「資源」とは,個人が持っている「能力」と「時間」です。「能力」には,体力,知力,気力,対人関係調整能力・・・など様々な側面があります。人が仕事や家事や子育てなどの社会的活動を行う場合には,この能力と時間を消費しながら活動を行っているわけです。

子どもの健全な発達を促すためには,大量かつ良質な資源を投入する必要があります。したがって,家庭には豊富な資源が保有されていることが必要です。しかし,近年は家庭内に保有される資源がどこも不足してきていると思われます。

家族構造の変化と資源の不足

原因は,戦後進行した家族構造の変化です。具体的には「核家族化」と「共働きの増加」です。「祖父母世代が同居する大家族で専業主婦の家庭」では祖父母が資源を供給できますので「大量の資源を少し家庭外に持ち出す」という形になります。家庭内に資源が残りやすく,その分は子どもの教育に投入できます。これに対し「核家族で共働きの家庭」では「少ない資源を大量に家庭外に持ち出す」という形になります。家庭内に資源はあまり残らず,子どもの教育に投入する資源も少なくなります。つまり現在の家族構造には資源不足になりやすいという弱点があり,子どもの健全発達に必要な資源を十分供給できない状態に陥りやすい結果,教育現場の混乱が生じていると考えられます。

資源供給理論

誤解を避けるために付言しておきますが,核家族化や女性の社会進出に反対しているわけではありません。ただ,資源の保有量という側面から見た場合,その家族構造にはかなりの弱点が存在するのは事実と言えます。問題の一つは,戦後起こった家族構造の変化によるこのリスクに対する対策が全くとられてこなかったことにあります。家族が子どもに供給できる資源が不足するのであれば,社会的に資源の補充を行うしくみが必要です。

一例をあげると,「ベビーシッターの公的資格を創設し一定の質を担保した子育ての専門家を養成する」などのしくみです。残念ながら今までほとんどそういう視点での対策がとられてきませんでした。原因は,この「資源不足」という側面が見落とされていたからだと思われます。

「資源」という概念をもとにして家族や子どもの教育の在り方を考える理論を「資源供給理論」と呼んでいます。この理論は非常に分かりやすく,かつ実践的な理論です。通信の最初のテーマとして「資源供給理論」をしばらく取り上げたいと思います。