とらすと通信

とらすと通信2024年7月号「システム理論と家族システム(5)配偶者不適応と資源の共有」

前回は「現代家族においては資源が不足しがちな傾向がある」ということを書きました。今回から「資源が不足した場合、家族にどういう反応が生じるか」について検討していきます。

資源不足に対する家族システムの反応

代表的な家族心理学者の1人であるマレー・ボーエン博士は、家族システムが高いストレス状態におかれた場合に生じる反応には4パターンあると説明しています。高ストレス状態は、資源という概念から考えると、資源が不足した状態であると言えます。したがってここでは資源不足が不足した場合の家族システムの反応と解釈することにします。

4つのパターンとは、①配偶者不適応、②夫婦衝突、③夫婦感情遊離、④子の損傷 です。

①配偶者不適応とは、夫婦のどちらかが病気をするなど不調に陥ることです。②夫婦衝突はいわゆる夫婦喧嘩です。③夫婦感情遊離は、夫婦がお互いの感情的交流を遮断して、いわゆる家庭内別居のような状態になることです。④子の損傷とは、子どもが社会的な不適応を起こしたり、病気をしたりなどの不調に陥ることです。

4つのパターンのうち、①配偶者不適応、②夫婦衝突、③夫婦感情遊離の3つは、子どもに影響せず、親世代だけで生じる問題です。しかし、多くの場合、問題が親世代だけにとどまることはなく、④子の損傷に移行すると説明されています。

資源不足に陥った場合の個人システムの反応

まず、配偶者不適応のしくみから考えてみたいと思います。このことについて検討するため、まず家族システムの下位システムである個人システムの場合について考えてみます。

資源不足に陥った場合、個人システムには様々な形で問題が生じます。その一つは、体調不良などの不調です。具体例として「過剰労働によって資源不足(=高いストレス状態)に陥り、結果として胃炎などの病気になった」という例を考えてみます。

個人システムは、消化器官・呼吸器官・運動器官など、多くの器官が有機的に結びついて構成されています。この場合、各器官は個人システムの下位システムということになります。

では、個人システムの資源不足というのは、どこか特定の器官の資源が不足しているのかというとそうではありません。個体システム全体で資源が不足している状態です。ストレス理論で言えば、ストレスは個体システム(心と体)全体にかかっている状態です。

しかし、個体システム全体が不調に陥るわけではありません。多くの場合、特定の器官が不調になります。つまり特定の下位システムが不調に陥るわけです。

先ほどの例でいえば「個体システム全体の資源不足が胃という下位システムの不調となって現れた」ということができます。このことは、視点を変えてみると、「胃という下位システムの一部が問題を表出することによって、個体システム全体としては何とかバランスがとれている」と解釈することも可能です。

配偶者不適応

家族システムは、個人システムが集まった集団システムです。階層の考え方によると、家族システムは個人システムの上位システムであり、個人システムは家族システムの下位システムです。

また、先の通信(4月号)でアイソモーフィズムという概念を紹介しました。各階層のシステムには共通の原理やしくみが働いているという概念です。つまり、個人システムで働いている原理やしくみは家族システムにおいても働くということです。

このことから、配偶者不適応とは、家族システム全体での資源不足が生じた場合、下位システムである個人システム-この場合夫か妻のどちらか-が不調に陥る現象と解釈可能です。原理としては、個体システム全体の資源不足が胃という特定の下位システムの不調となって現れるということと同じと言えます。

したがって、夫が仕事で過重負担を抱え資源不足に陥った場合、夫自身も何らかの不調を抱える可能性が高いですが、妻の方がより強い不調を抱えるということが起こりうるわけです。そしてこのことは、「妻という下位システムの一部が問題を表出することによって、家族システム全体がバランスをとっている」と解釈することも可能です。

また、不調を現すのは夫か妻だけではなく、子どもも当然その対象になります。その場合は「子の損傷」という現象になります。子の損傷のしくみについては今後の通信で詳しく検討したいと思います。

資源の共有

配偶者不適応という現象を、資源という概念からもう少し考えてみます。上述の例では、「夫の資源不足を妻の資源が補っている」と見ることができます。つまり、「家族システムにおいては資源が共有されている」と解釈することが可能です。

この「資源の共有」という現象は、どの集団システムにおいても多少はみられるものと思います。ただ、家族システムにおいては、資源の共有というしくみが非常に強く働いていると思います。それは、家族システムが、他の集団システムとは違い、非常に強い情緒的な結びつきを持っているからではないでしょうか。これは、家族システムが他の集団システムと比べて持っている顕著な特徴と言ってよいと思います。