家族心理学はシステム理論がベースになっています。筆者は、システム理論に資源という概念を加えることで家族システムをより理解しやすくなると考えています。今回は、家族システムと資源との関係について検討します。
資源とは
以前の通信に書いていますが、ここでは資源を「能力と時間」と定義します。人=個体システム は、自分の保有している資源を使ってすべての社会的活動を行います。社会的活動とは、仕事・家事・子育て・対人関係の対処などです。
資源に余裕があれば、さまざまな社会的活動に無理なく対処できます。しかし、資源が不足している場合には、社会的活動にうまく対処することができなくなります。個人の中ではそれが高いストレス状態を生じることになります。
社会的活動への対処とは、言い換えると環境適応ということもできます。つまり保有している資源が高ければ、環境適応も容易であるということです。
資源とシステム
アイソモーフィズムの原理(各階層のシステムには共通の原理やしくみが働くという原理)から、同じことが 人=個体システム を含むあらゆる階層のシステムにも当てはまります。つまり、家族システムについて同じことが言えるわけです。
家族は親や子どもといった複数の成員からなるシステムです。各成員がそれぞれ資源を保有しています。家族システムにおいては、成員それぞれが保有している資源を共有している状態にあります。そして、その共有している資源を使って家族をとりまく環境に適応を試みています。
現代の家族システムの資源状態
ここで、現代の家族の資源状態について考えてみたいと思います。
戦後、家族形態は大きく変わりました。以前は「大家族・専業主婦」という形態が一般的でしたが、「核家族・共働き」という形態に変わりました。
「大家族・専業主婦」という形態の場合、大人は父母世代に加えて祖父母世代がいます。大人が多いので、家族がもともと保有している資源は比較的豊富にあることになります。専業主婦世帯なので、父親だけが外で仕事します。家庭外に持ち出す資源は比較的少ないということになります。保有資源から家庭外に持ち出した残りが家庭内で使える資源になります。この資源を使って、家事や子育て、子どもの教育を行うことができます。
「大家族・専業主婦」という形態では、大量の保有資源を少量持ち出すという形態で、家庭に多くの資源が残ることになります。
これに対し、「核家族・共働き」という形態では、大人は父母世代だけになります。夫婦2人とも家庭外で働きます。つまり、もともと家族が保有している資源は少なく、多量の資源を家庭外に持ち出すことになります。家庭内に残る資源は少なくなります。
まとめます。「大家族・専業主婦世帯」は、家庭に資源が残りやすく、家事や子育てに余裕をもって取り組むことが可能です。これに対して「核家族・共働き世帯」では、家庭に資源が残りにくく、家事や子育てに使える資源が不足しがちになります。
現代家族は、基本的に資源不足に陥りやすい形態だと言えます。
現代の家族システムと社会システム
現代では、子どもたちが不安定になりやすく、学校現場ではさまざまな問題が生じるようになっています。その背景の一つには、家族構造の変化にともなう家族の資源不足があると考えられます。
核家族化や女性の社会参加は、政策的にすすめられてきたものでしょう。女性が社会参加すること自体はよいことだと思いますが、家族の資源が不足するということが想定されていないように思います。
近年は、母親の資源不足に対応するため、父親が家事や子育てに参加することが推奨されています。そのこともよいことだと思います。しかし、父親が家事や子育てに参加したとしても、家族全体の資源不足が解消するわけではありません。
この問題への対処として考えられることは、家族システムの一つ上の階層である社会システムの問題として対応することです。従来家族が子育てに関して全面的に責任を負ってきた歴史がありますが、今後は、子育ての機能の一部をより多く社会システムで担うことができるようにしていくということです。
具体的には、保育所の待機児童の解消、ベビーシッター制度の整備、家事を軽減する宅配食サービスの拡充、などなどです。
同時に、子育てに関しては、親子でのゆとりのある状態での交流によってでしか実現できない子どもの健全発達などがあります。そういう機能は家族で実現できるように社会システムをデザインする必要があると思います。
家族形態に関しては、今後大家族に戻すということは難しいのではないかと思います。しかし、祖父母世代ができるだけ近所に住むようにするなど形態はとれるでしょう。二世帯住宅など、住宅形態もそれを意識したものにしていくことは非常に有効だと思います。