とらすと通信

とらすと通信2024年5月号「システム理論と家族システム(3)家族システムにおける代謝」

前回は、アイソモーフィズムという概念を使って、生物体システムの機能から社会システムの機能を分析してみました。今回は同様の観点を使って家族システムの機能について検討してみたいと思います。

「システム理論と家族システム(3)家族システムにおける代謝」とらすと通信2024年5月号

細胞システムにおける代謝

細胞システムは、血液から運ばれてきた物質やエネルギーを取り入れ、内部で代謝します。細胞を構成するために必要な物質を合成したり、有機物を分解したりします。分解の過程ではエネルギーが生産されますので、そのエネルギーが細胞の生命活動を維持するために使われてます。

また、血液には、ホルモンなどに代表される、信号物質が含まれています。信号物質が細胞膜表面のレセプターに結合したり、細胞内に取り入れられたりすることで、細胞内の活動に変化が生じます。例えば、体全体の活動を活発な方向に進めるホルモンが血中に増えると、それを受け取った細胞では有機物の分解が活発になり、エネルギー生産が増えたり体温が上昇したりします。つまり、細胞では物質やエネルギーだけではなく、情報も代謝されると考えてよいでしょう。

細胞における物質やエネルギーと情報の代謝系に不備が生じていると、細胞システムや細胞が構成している生物体システムに不具合が生じることになります。代謝異常に起因する病気はこれに該当します。

家族システムにおける物質やエネルギーの代謝

家族システムにおいては、主に親が家族外で仕事をして、得られたお金を家庭内に持ち帰ります。お金は衣食住など生活を維持するために使われます。その意味でお金は物質やエネルギーに相当します。家庭内でお金を衣食住に必要なものに変換することは、細胞内での代謝に相当します。

お金が有用な形で無理なく衣食住の維持のために変換されていけば、家族システムは安定して維持されます。しかし、ギャンブルや買い物などに必要以上に浪費されれば、家族システムの維持は危機に直面することになります。これは、物質やエネルギーの代謝における不備の結果とみることができます。

こういう場合には、家族システムにおける、お金の変換のシステム=会計システム、の改善を図ることで家族システムの安定した維持を目指すことが必要です。家族システム内だけで改善が難しい場合には、ソーシャルワーカーなどの福祉の専門家の介入が必要になるでしょう。

家族システムにおける情報の代謝

家族システムには、家族外から様々な形で情報も持ち込まれます。

例えば、親が家族外で仕事をすれば、多くの場合、仕事で生じたストレスも家族システム内に持ち込んでしまいます。

家族システム内に持ち込まれたストレスという情報を解消する方法の一つは、家族団らんです。家族メンバー同士で暖かい言葉をかけ合い、交流する時間を持つことでストレスは解消に向かいます。これは家族システムを安定的に維持する情報代謝のしくみです。

一方、過剰なストレスが持ち込まれた場合、家族メンバーどうしの関係が悪化するなどの問題が生じやすくなります。例えば夫婦喧嘩があります。また、親子関係においては、子どもに対するソフトなネグレクトや虐待という形になります。

これは、家族システム内において、持ち込まれたストレスという情報を代謝するしくみではあります。しかし、一方で家族システムを不安定にさせる情報代謝のしくみにもなります。このしくみが繰り返し使われると、家族関係が希薄になったり、子どもの病気や不登校などの問題が形になってきます。

こういう場合には、家族システム内で、情報の代謝のしくみ理解し、改善していくことが必要です。

しかし、多くの場合、家族システムのメンバーだけで改善を図ることは極めて困難です。そこで、ソーシャルワーカーやカウンセラーなどの専門家が介入して、家族と一緒に情報代謝のしくみの改善を図ることが必要です。

方法としては次のようにいくつかのことが考えられます。

① 家庭外から持ち込まれるストレス自体の軽減を図ること。具体的には、経済的な影響が大きくでない範囲で仕事の負担を減らすことなどです。

② 家庭内で生じている負担の軽減も有効です。例えば、家事の負担を減らすために、食事の準備の一部を宅食(弁当の配達など)に切り替えるなど。

③ 家族メンバーが、家族内の関係悪化の原因をストレスという情報代謝という視点で理解しなおし、新しいストレス対処の方法を習得するなど。

このように、アイソモーフィズムの視点から、家族システムの機能を、細胞における代謝の機能をもとに分析することで、家族システムに生じる問題の解決に結びつけることができます。