とらすと通信

とらすと通信2024年3月号「システム理論と家族システム」

人は誰しも家族とともに生きています。親もきょうだいもいない天涯孤独という方でも、生まれたときは、父親と母親がいたはずです。成育過程では養護施設のスタッフなど、その方の養育に当たられた方はおられるはずです。

人はつねに家族とともにあり、お互いに強く影響を与え合いながら生きています。子どもの問題を考える上では家族というものを抜きにして考えることはできません。

そこで参考になるのは家族心理学です。そして、家族心理学の理論的ベースとなっているのはシステム理論というものです。今月からそのシステム理論について書いていきたいと思います。

とらすと通信2024年3月号「システム理論と家族システム」

システムとは

システムとは「個々の要素が相互に影響しあいながら全体として機能するまとまりやしくみ」のことです。

システム理論はもともと生物学から生まれました。生物体を例に考えるとわかりやすいと思います。生物体(個体)は細胞というものが集まって形成されています。そして、個々の細胞がお互い無関係に集まっているのではなく、極めて密接に影響しあいながら、一つの統一体としての生物体(個体)を形成しています。この場合、細胞が個々の要素ということになります。こういう形のものがシステムです。

例えば、ビンにビー玉が10個くらい入っているとします。ビー玉は個々の要素ではありますが、ビー玉同士が相互に影響し合っているわけではありません。こういう形態のものはシステムとは呼びにくいということになります。

システムの階層

システムには階層があります。細胞を構成しているのはタンパク質や核酸などの分子です。つまり分子システムが集まって細胞システムを構成しています。さらに細胞システムが集まって生物体(個体)システムが構成されます。人も生物体(個体)システムです。さらに、生物体(個体)システムである個人が集まって家族システムを形成し、家族システムの集合体として国家などの社会システムが形成されると考えることができます。

細胞システムは生物体(個体)システムの下位システムであり、生物体(個体)システムは細胞システムの上位システムと言います。

有機体としてのシステム

ガイア理論というものがあります。地球生態系そのものを生命体と考える理論です。この理論には多くの科学者からの反論があり、今は広く認められている理論ではありません。しかし、システム理論から考えると、生態系は、地球上の生物体システムと無機物からなる生態系システムであることは間違いありません。

つまりシステムは、それ自体が一つの統一体として有機的な働きをするものです。

「ストレス性の胃炎になった」というケースを考えてみましょう。ストレスは、心身の特定の場所にかかっているわけではありません。あえて言えば心身全体にかかっているはずです。しかし、心身全体にかかっているストレスが形となる場合、大抵は特定の部分に強く不調となって現れます。つまり、その人にとっては胃炎という形になっているということです。

同じようにストレスにさらされていても、人によって睡眠障害になる人もあれば、風邪をひきやすくなる人もいます。ストレスが形になりやすい部位は異なりますが、これは、身体の特定の部位がストレスを形にすることで、心身全体がバランスをとっているという見方もできます。

ストレス性の胃炎の場合、もちろん胃炎そのものを治療することは必要ですが、根本的解決になりません。根本的に解決するには、心身全体にかかっているストレスを分析し解消することが必要です。

家族システムと子どもの問題

これを家族システムの場合に当てはめて考えるとどうなるでしょうか。家族は、父親、母親、子ども、と言った個人が集まっているだけのようですが、家族システムとして見た場合、家族そのものが生物体であるかのように、有機的な働きや反応を示すものということになります。

例えば、子どもが不登校という状態になっている場合、もちろん子ども自身の個人的な課題が背景になっていることもあります。しかし、家族システム全体に強いストレスがかかっている場合、子どもの不登校という形で家族システムがバランスをとっていることもあるわけです。

この場合、子ども自身のことだけをいくら分析しても不登校の背景は十分には理解することができません。家族システム全体にどのようなストレスがかかっているかを分析し、解消や低減を図ることが必要です。

このように、子どもが抱えている問題に対応するには、子ども自身の個人的な課題を分析すると同時に、家族システム全体が抱えている課題についても分析し、両面から対応していくことが重要だと言えます。