とらすと通信

貧困問題の解決は教育問題の基礎条件

「資源」の定義に「財(お金)」を加えることができます。経済状態の安定は子どもの発達において非常に重要な要素です。

とらすと通信 2018年5月号 「貧困問題の解決は教育問題の基礎的条件」

ここまで「資源」の定義として「能力」と「時間」としてきました。これに「財(お金)」を加えることもできます。まず,「財(お金)」は,仕事において「能力」と「時間」という資源を消費して得られるものです。つまり,資源が変換したものと言えます。また,我々は財を使って生活を支え,教育や医療といった子どもの成長に必要なものを与えていきます。つまり,財は生活や子どもの成長に必要な資源に変換することができるわけです。このように資源は「変換できる」という特徴がありますが,そのことについては後日説明したいと思います。

経済不安が高い精神的ストレスを生じる

財は生活を支える基本的条件であることは言うまでもありません。毎日の食事をはじめ,衣食住すべて財によって支えられます。生活していくためには一定の収入があることが必須条件です。しかしこのことは単に衣食住に財が必要だということにとどまりません。貧困家庭では虐待や家族崩壊ということが起こりやすいことが知られています。私自身の経験でも貧困家庭では子ども不登校などの問題も生じやすくなると感じています。これは,財という資源の不足により生活不安が生じ,それが極めて高い精神的ストレスを生じるからだと思われます。この側面は誰でも知っているようでいて意外に見過ごされる要因でもあります。

マズローの欲求段階説

このことは,「マズローの欲求段階説」からも理解することができます。マズローは,人の基本的欲求を,①生理の欲求,②安全の欲求,③社会欲求と愛の欲求,④承認の欲求,⑤自己実現の欲求,の5つに分類しました。①や②は最も原初の基本的欲求であり,これが満たされないと③,④,⑤の欲求も満たされることは難しいといえます。貧困家庭で育った方が大人になってから「自分なんかが大学に行ってはいけないと思っていた」と語るのを聞いたことがあります。「貧困」により「生理の欲求」や「安全の欲求」が脅かされている状態では,同級生などの同胞の集団への帰属意識(承認の欲求の満足)を持つことが困難であることを示しています。ましてや自己実現の欲求を追求することなどかなり難しい作業でしょう。

経済的安定を保障する取組みを

子どもの健全な発達を保障するためには,一定の経済的安定が必須条件です。これは,貧困家庭でも学校教育が受けられるように援助することももちろんですが,家庭生活そのものが安心しておくれるようにセーフティーネットの整備や経済格差の解消に取組む必要があると思います。現在「子どもの貧困対策の推進に関する法律(平成26年)」が施行され行政においても取組がなされていますし,民間でも「子ども食堂」のような取組がなされるようになっています。今後も社会全体でこの問題に取り組んでいくことは,いじめや不登校,ひきこもりなどの教育問題の解消にもつながることだと思います。