とらすと通信

とらすと通信2022年8月号「相対的貧困と家族のストレス」

援助資源マップに関連する内容はいったん終わりにして、話題を変えたいと思います。今回は相対的貧困と家族のストレスについて考察します。

相対的貧困と家族のストレス

絶対的貧困と相対的貧困

ご存じの方も多いと思いますが、「貧困」には2種類の定義があります。「絶対的貧困」と「相対的貧困」です。絶対的貧困とは、生活に必要最低限な食料の購入もままならない状態で、生命の危機に瀕しているケースもある場合です。主に発展途上国で見られる状態で、日本のようは経済先進国ではほとんどみられません。

一方、相対的貧困は、その国や地域の文化水準や生活水準と比較して大多数よりも貧しい経済状態のことを指しています。厚生労働省では「等価可処分所得の中央値の半分の額」を「貧困線」とし、貧困線を下回る世帯を「相対的貧困世帯」と定義しているようです。

あまり聞きなれない用語が使われていますが、要するに、所得の多い人から少ない人に並べた場合、真ん中くらいの人が得ている所得の半分しか得られていない世帯と理解してよいかと思います。

相対的貧困は衣食住の確保が困難になるほどの貧困ではないため、問題が潜在化しやすいという特徴があります。

日本の相対的貧困率

厚生労働省の調査では、日本の2018年時点での相対的貧困率は15.7%であり、G7加盟国中アメリカに次ぐワースト2位です。そのうち17歳未満の子どもの貧困率14.0%であり、およそ7人に1人が該当しています。

日本の相対的貧困率は2000年ごろでも14%であり、約20年たってもほとんど改善されていないことがわかります。

かつて日本は「一億総中流社会」と呼ばれ、経済格差のきわめて少ないまれな国でした。しかし現在はアメリカに次ぐ経済格差のある国になってしまっているのです。

相対的貧困にある子どもたち

相対的貧困にある子どもたちは次のような状況にあることが多いと言われています。

「家計を支えるため毎日アルバイトをしている」「大学や専門学校などへの進学を経済的理由からあきらめざるを得ない」「1日に必要な栄養を学校給食に頼っている」

これらの現状ももちろん深刻な問題です。結果として貧困の連鎖が生まれている現状もあります。さらに次の課題もあると思います。

相対的貧困と社会的圧迫

これは筆者の印象なのですが、相対的貧困にある家庭の子どもは不登校等の課題を抱えやすいリスクが高いのではないかと思っています。理由の一つはお金という資源が不足することで家族全体が高いストレスを抱えやすく、子どもの十分な資源を供給することができないからだと考えます。このことについては以前の記事に書きましたのでそちらを参照いただけたらと思います(2018年5月「貧困問題の解決は教育問題の基礎条件」)。

筆者は、さらに相対的貧困の家庭の子どもが不登校等の課題を抱えやすいリスクが高い理由のもう一つとして「社会的圧迫」があるのではないかと考えています。

社会はいろいろな指標をもとにピラミッド構造となっています。その指標の大きなものとして経済状態があります。結果として経済的に余裕がある家庭と余裕のない家庭の間に自然にヒエラルキーが形成されてしまうことになります。「勝ち組・負け組」「上級国民」などの言葉の存在がそういう現象を示していると思われます。

社会的ヒエラルキーが形成されると上の階層が下の階層にのっかる形で意識が形成されます。つまり下の階層には、そこに所属しているだけで社会的圧迫がかかるということです。

社会的圧迫は目には見えませんが、心理的ストレスを引き起こすと思われます。そのため、子どもの不登校等のリスクが高くなるということです。

経済状況から教育問題をとらえなおす

戦後の日本はみんなが貧しい状態でした。しかし、経済的に格差は少なかったわけです。現代は経済全体としては豊かな時代になりましたが、経済格差が広がりました。それが教育問題の大きな原因の一つとなっていると思われます。経済格差の解消は、これからの日本の大きな課題の一つだと思います。