4月と5月は少しテーマを外れて平和教育について考察しました。今月から「子どもの自己資源」のテーマに戻したいと思います。
とらすと通信2022年6月号「子どもの自己資源(5)ー母子交流強化介入の注意点」
母子交流強化の介入の注意点
前回は「甘えの満足が不十分な場合(軽い愛着障害?)」には、母親と子どもの交流を強化することである程度回復が可能ということを書きました。
この「甘えの満足が不十分」なケースの場合、カウンセリングなどの場面で、母子の交流強化を提案する介入を行うことになります。この際非常に重要なことがあります。
それは、お母さんが気持ちのゆとりをもって子どもと交流できる状態が実現できるかどうかということをアセスメントすることです。たとえ母子交流の時間をある程度確保したとしても、お母さんの仕事の負担が大きく、子どもと話しをしていても、仕事のことがちらちら頭をよぎるようであれば効果が半減してしまいます。重要なことは、お母さん自身気持ちのゆとりをもって子どもとの会話や交流を楽しめる状態が実現できるかどうかです。
お母さんの資源がぎりぎりの状態であれば、母子交流強化の提案をしても実現できない可能性があります。さらに、提案をしたこちらの側に反発が生じる可能性も大きくなります。追い詰められている状態でさらに負担を増やすわけですから「私にこれ以上頑張れと言うのですか!」という気持ちになっても無理はありません。そうなるとお母さんとの信頼関係が崩れ、今後の支援が非常に難しくなります。
資源状態のアセスメント
このために欠かせないのがお母さん自身の資源状態の評価です。家族の資源評価と言った方が適切かもしれません。資源は家族で共有しているからです。お母さんの資源は少しはゆとりがある状態であっても、お父さんの資源が枯渇状態であれば、そちらを埋めるためにお母さんの資源が使われてしまいます。
家族の資源状態のアセスメントを行うために必要な情報は主に次のようなものです。
〇 両親の仕事の内容・負担・拘束時間・・・通常家族外で消費される資源として仕事は最も大きなウェイトを占めます。ご両親の仕事についての情報を可能な限り聞くことで、どの程度資源を消費しているかを推測します。職種としては、一般に福祉・教育・医療などの対人援助職は資源消費が大きい傾向があると思います。
〇 仕事以外の資源消費・・・例えば、祖父母世代が介護が必要な状態であれば資源の対象となります。
〇 両親の免疫体力・ストレス対処能力などの、社会適応に必要な能力全般のアセスメント。
〇 収入・・・お金は生活を支える資源として非常に重要なものです。経済的にゆとりのない状態では精神的なゆとりも生まれません。ある程度の経済的ゆとりは必要と思います。収入を直接尋ねることは難しいと思いますが仕事の内容その他の情報からある程度推測可能だと思います。
〇 きょうだいの状況・・・きょうだいが多ければ、課題を抱えている子ども以外にも資源を配分しなければなりません。一般にきょうだいが多いほど資源配分が難しくなるのは事実です。また、現在対応している子ども以外のきょうだいが障害や病気を抱えていたりすればそちらに配分すべき資源が大きくなります。
〇 核家族以外の援助資源・・・祖父母・保育園・学童保育・医療機関・相談機関など、核家族以外に利用可能な援助資源がないか情報を集めます。
これら以外にも、家族の資源状態に関係すると思われる情報をできる限り集めアセスメントを行う必要があります。
そして、資源状態のバランスがとれていなければ、資源バランスの回復を含めた提案を行う必要があります。このことについては次回考察したいと思います。