とらすと通信

行動規範とストレスマネジメント(1)

ストレスマネジメントにはいろいろな側面からのアプローチがあります。一つの側面として,対人関係における自分の行動のコントロールがあります。

とらすと通信2021年5月号「行動規範とストレスマネジメント(1)」

自分の居場所は他者が作る

コロナウィルスの影響で職を失う方が増えています。新規採用を控える企業も多く,就職がなかなか決まらず困っている若者も多いようです。経済的困難に陥ることも非常に問題ですが,同時によく耳にするのは「自分は社会から必要とされていないと感じる」という言葉です。気持ちが落ち込み精神的に不安定になる方も多いと聞きます。

「自分の居場所は自分で作る」とい言い方もできますが,実際には「自分の居場所は他者が作ってくれる」のではないでしょうか。

誰しも家族や友人,仕事の人間関係などの中で何かしら自分必要としてくれている人の存在があるものです。周りの誰かが「あなたにそこにいてほしい」と思ってくれることがこの世界での生存を許し確かなものとしてくれているということではないかと思います。

社会心理学などの調査では,信頼できる人が多い人は,孤独な人に比べて寿命が長く,健康であるというデータがあります。また幸福学の調査では,信頼できる人が多いほど幸福感が高いというデータもあります。これらのことが上記のことを裏付けているものと思います。

想像してみてください。もし自分の周りの人が誰一人自分を必要としていなかったらどうでしょうか?今自分が死んだとしてもだれも悲しんでくれる人がいないとしたら?そんな状態で自分自身を支えて生きていくことができるでしょうか?

「自分の居場所は他者が作ってくれる」ということをもう一度確認する必要があると思います。

ストレスマネジメントと自分の居場所

この側面からストレスマネジメントについて考察すると「周りに自分のことを信頼し,大事だと思ってくれる人が多いほどストレス耐性が高くなる」ということができると思います。周りの人と信頼関係を作りそれを維持していくことがストレスマネジメントにとって極めて重要だということです。

では,「自分のことを信頼し大事に思ってくれる人」を作るにはどうすればいいでしょうか?それを理解するには,「自分自身が信頼し大事に思う人」はどんな人かを考えてみればよいでしょう。例えば,「怒りっぽく暴力的な言葉づかいの多い人」「相手のことより自分の利益ばかりを優先する人」「よく嘘をつく人」「悪口の多い人」などは信頼できる人にはなり得ません。

人に「自分のことを信頼し大事に思ってくれる」ようになるためには,まず自分自身の「行動」を人から信頼されるものにしていく必要があるということです。そのためにはしっかりと自分の行動をコントロールする必要があります。感情に任せて行動していたのでは人からの信頼は得られないからです。そして,自分自身の行動をコントロールするためにはその指針となる「行動規範」が必要です。現代は「行動規範がなぜ必要か」また「どういう行動規範が重要か」ということが見失われている気がします。

次回からこのことについて考察していきたいと思います。