認知面において「認知の歪み」がさまざまな問題を引き起こすことを説明しました。認知の歪みの代表的なもう一つものとして「過度の一般化」を紹介します。
とらすと通信2021年3月号「認知行動療法について(3)」
過度の一般化
私たちは時々「男はだらしない」「女は感情的だ」「年をとると頑固になる」などといった言葉を使ったりします。例えば,過去に交際した男性数人がみんな片付けなどが苦手だったとすると,女性の思考には「男はだらしない」という信念がつくられやすくなります。しかし,少し論理的に考えればこれは明らかに誤りです。男性の中にはとても几帳面で片付けが得意な人はたくさんいます。同様に,あまり感情的にならない女性もいますし,若者よりも柔軟な思考のできるお年寄りもたくさんいます。
このように,過去の数例の経験などから得られたイメージを全てに当てはめてしまうことを「過度の一般化」と言います。
一般化というもの自体が必ずしも悪いことではありません。男性・女性という分類をすれば,男性と女性それぞれが持っている「一般的」な傾向というものは確かにあるでしょう。そうであるならば男性や女性のもつ特質を単純化することで理解しやすくなりますし,日常の生活において異性と交流する際には役立つと思われます。
しかし,それはあくまで「一般的な=平均的な」ということであって,男性にも女性にもそれぞれ個性がありますから,ひとくくりにできないのも事実です。したがって,それを全ての人に当てはめようとするといろいろと問題が生じます。
「自分はクラスの女子みんなから嫌われている」
さくらさんは小学校の低学年です。あるとき相談で「自分はクラスの女子みんなから嫌われている」と言いだしました。話を聞いてみると,2人ほどの女子からちょっと冷たくされた経験があったようです。しかし,その他の女子からそういう態度をとられたことはありませんでした。念のため担任の先生にも聞いてみましたが,さくらさんがとくに女子から嫌われている様子はなさそうでした。
このような事例も時々見られるものです。「2人の女子から冷たくされた」→「2人は自分のことを嫌っている」→「クラスの女子はみんな自分のことが嫌い」という形で思考が広がったものと思われます。典型的な過度の一般化と言えます。
認知の修正
このような場合,認知を修正するにはどうすればいいでしょうか?「そんなことないと思うよ」といってもほぼ受け入れてはもらえません。「先生は自分のことをわかってくれない」と思い,心を閉ざしてしまうことになることでしょう。
まず重要なことは,さくらさんの「つらい」という気持ちを共感的に理解することです。「そうか。みんなが自分を嫌っているように感じるならつらいよね」というような言葉を返すことがよいかもしれません。ここでのポイントはさくらさんの行っていることを「事実」として扱うのではなく,あくまでさくらさんの「認識」として感じていることであるという扱いをすることです。
次に,さくらさんの認識がどのように形成されてきたのかを一緒に考えていきます。「2人の女子からどんな場面でどういうことを言われたのか」「他の女子の態度はどうなのか」「逆にさくらさんに優しくしてくれる女子はいないのか」などを問いかけていきます。
たいていの場合,さくらさんにも優しくしてくれる子も数人はいるものです。その話が出たら「それじゃ,クラスの女子みんながさくらさんを嫌っているというわけではなさそうだね」という言葉を使うことができます。ここまでくるとさくらさんの認識も少し修正されてきます。もう少し進めば,2人の女子がなぜそういう態度をとったのかについても一緒に分析できるかもしれません。ここでのポイントは,さくらさんの「認識」ではなく「事実」をできるだけ細かく確認していくことです。そうすることで認識が自然に修正されていきます。
認知の修正はなかなか難しい作業です。認知の歪みは自分を苦しめるもとではありますが,その認知パターンによって世界を認識することで環境に適応していけるのも事実だからです。認知の修正には上記のような「ていねいな話し合い」によって認知の修正を試みることが重要と思います。