「知力」には「概念処理能力」「対人関係調整能力」「直観力」「スキル」「倫理力」などがあります。これらの能力のバランスのとれた発達が重要です。
とらすと通信 2018年3月号 「知力」はバランスのとれた発達がカギ
この記事では資源を「知力」「体力」「潜在的被支援力」に分類しています。今回は「知力」について考えてみたいと思います。
「知力」の分類
ここでいう「知力」とは,体ではなく頭脳を使う能力全般を指しています。さらに分類すると「概念処理能力」「対人関係調整能力」「直観力」「スキル」「倫理力」などに分けることができます。
「概念処理能力」は,概念とそのつながりを理解し操作する能力です。論理的能力といってもいいかもしれません。学校の勉強はこの部分の比重が非常に高くなっています。
「対人関係調整能力」とは,人との関係をつくり良好な状態に維持する能力です。
「直観力」は,概念処理能力のように概念を操作するのではなく,全体の状況から瞬時に最も最適な解を導き出すような能力です。
「スキル」は,職業や家事などにおいて処理すべきタスクを効率よく遂行するための技術です。
「倫理力」とは一定の倫理的行動基準を自分に設定し守っていく力です。
もちろんこれらの能力は,個々に独立しているものではなく,相互に関係しています。
資源としての能力はバランスのよい発達が重要
特定の能力が突出して高くても,他の要素に課題があればそれが資源としての能力全体に影響してきます。例をあげます。一般に高学歴の場合「概念処理能力」は高い傾向があります。
しかし,「対人関係調整能力」に課題があれば,組織の中で仕事をしていく場合に必ずトラブルが生じるでしょう。「直観力」に課題があれば,与えられた範囲で仕事をする分には効率よくこなせるかもしれませんが,クリエイティブな仕事をするのは難しいかもしれません。「スキル」に課題があれば,効率よく仕事や家事を処理することができません。よく嘘をつくとか,約束を守らないとか,万引き癖があるなど「倫理力」に課題があれば,人との信頼関係を維持することは非常に困難です。しだいに孤立を深めていくでしょう。
したがって,これらの能力がある程度バランスよく発達することが非常に重要だと考えられます。つまり何をするにしても「総合力」が重要だということです。
今後の課題は
これらの能力の中で特に近年課題になっているのは,「対人関係調整能力」と「倫理力」の発達ではないかと思います。「雑談ができない」「なじみのない人との交流が非常に苦手」などの若者が増えています。好意をもって注意したことを,「悪意がある」と受け取ってしまうような事例を多々見られます。「倫理力」は他者に対する共感性が絶対の前提条件ですが,どうもその共感性が不足していると感じられる場合もあります。
この「対人関係調整能力」や「倫理力」は,机の上で概念として理解しただけでは実行することは困難であり,幼少期から多くの人との交流の中で感覚的に体得されていくものと思います。つまり,「多くの人との交流」という体験が現在はかなり減少しているということではないかと思います。子どもの教育において今後はこの部分の改善が大きな課題になると思われます。このテーマについては別の機会にまた触れさせていただきたいと思います。