とらすと通信

「思春期の子どもと性的アイデンティティの確立」

思春期の子どもの課題として重要なことの一つに「性的アイデンティティの確立」があります。現在においてはこのことも非常に困難になってきていると思います。

とらすと通信 2020年11月号「思春期の子どもと性的アイデンティティの確立」

性的アイデンティティとは

性的アイデンティティとは,要するに「自分は女性/男性である」「女性/男性にはこういう特性があり,社会や家庭においてこういう役割を果たすことが期待されている」という自己イメージです。性的アイデンティティの確立が困難になっているというのはどういうことでしょうか?

生物学的性(セックス)と社会的・文化的性(ジェンダー)

ご存知と思いますが,性別にはセックス(生物学的性)とジェンダー(社会的・文化的性)があります。セックスは生物学的・遺伝的に確定しているものです。これに対しジェンダーは社会的・文化的に性別やそれに伴う性役割について色付けされたものです。

戦前の日本においては,明確かつ強固なジェンダーが支配的でした。「大黒柱」「男子厨房に立ち入らず」「内助の功」「良妻賢母」などの言葉がそれを象徴しています。これらのジェンダーは性差別を引き起こすものであるとして,戦後はジェンダーフリーの考え方が主流になってきました。これには,産業界の要請にともない女性の社会進出が進み,戦前のジェンダーが時代に合わなくなったという事情もあると思います。

新しい時代のジェンダーの模索

ある意味戦前には性的アイデンティティの確立は容易であったともいえます。男性/女性のイメージとそれぞれが社会から求められる役割が極めて明確ですから,思春期にはそのイメージを取り入れ自分の性的アイデンティティを確立できたわけです。

ところが,ジェンダーフリーの考え方に伴って,女性/男性のイメージや社会的役割がわからなくなりました。学校においても女子と男子を全く区別せず教育することが主流になりました。性差別が解消されてきたのは良いことだと思いますが,「女性/男性としてどう生きていけばよいのかがわからなくなる」という新しい課題が生じてしまいました。

アイデンティティの確立には「モデル」が必要です。自分で女性/男性の本質を見極めることのできる人などほとんどいないと思います。そういう意味で「ジェンダーフリー=ジェンダーは不要」なのではなく,やはり必要だと考えます。

最近では,脳生理学や心理化心理学の知見から「女脳」「男脳」などの言葉が使われるようになり,女性と男性ではその心理的な働きがかなり異なっていることがわかってきました。

ジェンダーは社会的・文化的に色づけされたものです。したがって,セックスにおける本質的な違いとは少しずれが生じるとは思います。しかしジェンダーがなければ思春期における性的アイデンティティの確立の確立は非常に困難になります。

現代において必要なことは,「新しい時代のジェンダー」を模索することではないでしょうか。そしてその新しい時代のジェンダーは,できうる限り「自然な性の違い=セックス」を反映したものであることが望ましいと思います。