思春期の課題は親の保護下から離れ,社会的に自律した大人として行動できるようになることです。そのために必要なことは何でしょうか。
とらすと通信 2020年10月号「思春期の子どもと社会的モデル」
あこがれや尊敬の対象
思春期になると,あこがれや尊敬の対象となる人が出てきます。身近なところでは親や学校の先生,部活の先輩などです。離れたところではミュージシャンや俳優などの有名人が対象になることもあります。最近はユーチューバーなども対象になるかもしれません。また歴史上の人物や小説などフィクションの人物なども対象になります。
大人になってから考えると,思春期にあこがれていたほど“すごい人”というわけではないことも多いのですが,その時期はとてもあこがれの気持ちが強くなります。
社会的に自律できる人間になるためには,そのためのモデルが必要です。思春期にあこがれや尊敬の気持ちが強くなるのは,そのためだと思われます。無意識にモデルとなる人物を探して社会化の作業を行うようになるのです。
モデルとなる人物像を提供する
したがって,この時期にどんな人をモデルにしたかによって社会的な自我の傾向が大きく左右されることになります。では,周りの大人にできることは何でしょうか?
それは,モデルとなる人物像をできるだけたくさん提示してあげることだと思います。子どもが接触している情報は意外と偏りが大きいものです。現在は特にネットから得る情報の割合が非常に大きくなっていますが,情報の質としてはあまり高いとは言えない内容が多いと思います。一方で,真に尊敬に値する人物像の情報はあまりないかもしれません。おそらく以前に比べてそういう情報は減少していると思います。「特定の思想を教えてはいけない」ということが強調されたためか,学校教育でもそういう人物の話をすることはかなり減っています。
以前にくらべて,思春期の子どもにとって「尊敬できる人物像」が必要だという認識が弱くなっていることが現代の課題だと思います。必要なことは,今一度モデルとなる人物像の提供の重要性を再確認し,そういう話を意識的に子どもとする機会をもつことではないでしょうか。
与えられた人物像の中から,最終的にどういうモデルに同一化するかは子どもが自然に決めていきます。大人にできることは,良質のモデルをたくさん提示してあげることだと考えます。親が自分の尊敬する人物について子どもに話して聞かせるなどはとてもよい機会となると思います。