記録的な猛暑が続いています。この暑さは子どもたちの状態にも影響しているようです。
とらすと通信 2020年9月号「物理的ストレスと子ども」
その子どもの行動は怠け?
夏休み中に聞いた保護者の話の中で気になることがいくつかありました。特に小学生の行動です。「最近子どもが何をするにしてもダラダラして,すぐに動こうとしない。汗びっしょりなのにお風呂に入るのを面倒くさがる。食後の歯磨きなどもなかなかしようとしない。以前はそんなことはなかったのに。夏休みで好き勝手していいと思っているとしか思えない」とのこと。そのせいで毎日子どもとケンカのようになり疲れておられるようでした。他にも似たようなケースをいくつか耳にしました。
また「子どもがなぜかイライラしていて下のきょうだいに当たるため兄弟げんかが増えた」という報告もありました。
子どもが怠惰な態度でいると大人は「怠けている」と考えがちです。そういう場合ももちろんありますが,実は身体的なストレスから怠惰な態度になっていることもよくあります。今回の場合はおそらくあまりの暑さでいわゆる「夏バテ」を起こしているケースではないかと思います。
熱中症については以前よりも共通認識が広がり対策もされるようになりました。しかし,そういう急性の症状でなくても気温の高い日が続くことで体にストレスが蓄積し慢性的な疲労状態となっているのが夏バテです。暑いというだけではなく,室内外の温度差による自律神経の乱れや熱帯夜による睡眠不足なども原因になります。熱中症に比べて夏バテはあまり認識されない場合が多いようですが,意外に夏バテになっている子どもは多い気がします。
特に体が成熟過程にある子どもは大人が考える以上にダメージを受けやすい状態にあります。ですから,子どもの行動が以前と比べてちょっとおかしいと感じたときは,すぐに「気持ちの持ちかた」を原因にするのではなく「身体的な不調がないか」ということも検討してみる必要があると思います。もし夏バテが原因であるのならば,怠惰な行動を叱責するのではなく,栄養や睡眠などの生活改善をはかることがまず重要です。
ちなみに,夏の疲れは秋になって出てきますので,そういう症状がみられた場合にはあまり無理をせず一日の疲れが残らないような生活を心がける必要があります。
物理的ストレスと心理的ストレス
ストレスというと対人関係などから生じる心理的ストレスというイメージが強いですが,上記のように暑い・寒いなどの物理的な刺激もストレスになります。筆者は,物理的ストレスの影響は通常認知されているよりも大きいのではないかと考えています。
もちろん常にエアコンのきいた部屋にいることが子どもの発達によいかというとそうではなく,ある程度気温変化のある環境で生活しないと自律神経の機能が発達しません。しかし,限度を超えた暑さが続くことはダメージを蓄積させ物理的ストレスによって日常生活に影響が生じます。したがって,物理的ストレスをどうコントロールするかということも非常に大きな課題です。
学校生活における物理的ストレス
では,次のような生活はどうでしょうか?
「毎日5~6時間,狭い部屋に多数の人間と一緒に閉じ込められ,固い椅子に座らされて勝手に立ちあるくこともできない。おしゃべりも禁止され,あまり興味のない話を延々と聞かされる」
何のことかおわかりでしょうか?学校での子どもたちの生活を記述するとこのように書けなくはないですよね。もちろん子どもたちがいきいきとした楽しい授業を実践されている先生方もたくさんおられると思いますが,毎日そういう授業を展開するのもまた難しいと思います。
考えたいことは,学校における教室での生活という物理的ストレスが,一般に予想されているよりも子どもたちに影響しているかもしれないということです。もしかすると,「今より一教室当たりの子どもの人数が半分くらいになり,机や椅子も少し大きめで椅子にはゆったりと座れるようにクッションがついており,授業中であっても疲れたら自由に休憩できるような環境になったら」不登校やいじめなどの問題も減少するかもしれません。
学校教育における課題について検討する場合,心理的ストレスに加えて物理的ストレスの軽減も考える必要があると思います。