心理学には「愛着形成」という概念があります。有名な概念なのでご存知の方も多いと思います。最近は愛着形成が十分でない状態で成長してしまう子どもも増えているように思います。
とらすと通信 2020年7月号「『○○ちゃんの時間』をつくる」
愛着とは
「愛着」とは,さまざまに定義されていますが「母親や父親など特定の養育者との間に形成される心理的絆」というような意味です。年齢的には0~3歳ぐらいの時期に形成されると言われています。子どもの愛着の最初の対象となるのは,やはりまず母親(母親の役割をする人)でしょう。
愛着は,親と子が授乳をしたり,おむつを替えたり,お風呂に入れたり,抱っこしてあやしたりなど,主にスキンシップを通じて形成されていきます。乳幼児期の特に初期は親が不在になると子どもは不安になり泣き出します。親が抱き上げてあやすことで安心を得ます。少し成長して自由に歩き回れるようになってからは,不安な出来事などに遭遇すると親に抱きつき,安心を得てからまた探索を始めます。つまり親を「安全基地」として使うわけです。
愛着は,特定の養育者との間に形成される絆ですが,これがしっかりと形成されることで,その人には「基本的な信頼感」が形成されます。つまり「自分はこの世界に受け入られている。この世界で生きていてよいのだ。」という確信になります。基本的な信頼感はその後一生を通じてその人の人生を支える基盤となります。
逆に,愛着形成に失敗すると,潜在的に自己否定的で不安の強い人格となり,一生を通じて困難な人生を歩まざるを得なくなります。ネグレクトや虐待を受けた子どもはその典型的な例です。
現代の愛着形成事情
現代では,愛着形成が少し難しくなっている面があると思います。
一番の原因は何といっても「親が忙しい」ということでしょう。子どもを保育園に預け両親とも働いている家庭が大多数です。子どもの迎えの時間に間に合うように仕事を分単位でこなし,子どもを保育園に迎えに行き,帰宅後は食事の準備など家事が待っています。常に何かに追われているような生活を送っている状態では,ゆったりとした気持ちで子どもの相手をすることは難しいでしょう。親が忙しい時に限って子どもがお漏らしをしたり,物を壊したりするものです。無意識に親に構ってもらおうとしているのかもしれません。
かといって,片方が仕事を辞めて専業主婦や専業主夫になることが可能かというと,経済的になかなか難しいのが多くの場合現実でしょう。
「○○ちゃんの時間」をつくる
そこでお勧めしたいのは,1日のうち10分でもいいので,「○○ちゃんの時間」を作ることです。その時間は意識的に他のことを考えるのをやめて一人の子どものことだけに関心を寄せて相手をするということです。
子どもの相手をしていても,忙しい生活を送っていれば昼間の仕事のことや家事などのこと考えてしまうことが多いと思います。子どもは大人より敏感なので,親が自分の相手をしていても,他のことに気を取られていることに気づいています。気を引くためにいたずらをしたり,泣いたりして親を困らす行動になり,親が子どもを叱ってしまい,お互いストレスを高めるという結果になりがちです。
忙しい生活の中で子どもの相手をするには,かなり意識的に「この時間は○○ちゃんの時間」と頭の中を切り替えて子どもの相手をする必要があります。きょうだいがいれば「Aちゃんの時間10分」「次はBちゃんの時間10分」という風に順番を決めて行い,子どもにも説明しておいたらどうでしょうか?
毎日10分とか,週末は1時間とか,毎日毎週のスケジュールの中にこの時間を組み込んでおくと取組みやすいでしょう。時間を決めることが一つのポイントです。決めないと日々の生活の中で実行できずに何となく毎日が過ぎていってしまいます。
「愛は独占する」という言葉もあります。子どもは親の愛情を独占したいものです。独占によって愛着が形成され,それが普遍的な愛情へと変化していきます。一人ひとりの子どもに対して,その子の事だけを考える時間を作ることは,忙しい現代の子育てにおいて重要なポイントになると思います。