とらすと通信

「学校再開に向けて 学校適応をどうサポートするか」

緊急事態宣言の解除を受けて,全国的に学校が再開されています。熊本県でも6月1日からほとんどの学校で本格的に登校が始まります。再開にむけて私たちはどんなことに気をつけるとよいでしょうか。

とらすと通信 2020年6月号「学校再開に向けて 学校適応をどうサポートするか」

イレギュラーな環境変化とストレス

これだけ長期の休校が続くのはかなり異例なことです。学校再開は歓迎すべきことですが,子どもに限らずイレギュラーな環境変化は非常に高いストレスとなり得ます。学習の遅れを取り戻すためにカリキュラムが過密気味になる可能性もあります。新学期が始まってまだクラスメートとの関係も作れていない状態での再スタートにもなります。休校中に生活リズムがうまく作れなかったり,ゲームやSNSなどに依存的になっている子どももいることが予想されます。

それでも,ほとんどの子どもは時間をかけて何とか学校環境に慣れ,日常の生活ペースを作っていけるものと思います。ただ,学校再開の初期になかなか自分のペースを作れず,不登校などの適応困難に陥る子どもも増える可能性があります。

不登校の原因は脳の慢性疲労

不登校の原因は多くの場合「うつ状態」です。うつ状態とは「脳の慢性疲労」とも言えます。いったん慢性疲労状態に陥った脳機能はすぐには回復しません。緊張のかかる活動を減らし,リラックスできる環境で回復を図ることが必要です。つまり,登校刺激をさけ,本人ができる範囲での活動に留めることが必要になってきます。ただ,回復には一定の期間が必要になります。

したがって,予防的観点から考えた場合,不登校のサインを早期に発見し対応することが重要です。風邪も初期に対応すれば悪化せずにすみますが,こじらせてからでは回復に時間がかかってしまうのと同じです。

うつ状態になりかけのサイン

うつ状態に陥る前にはさまざまな面にサインが現れます。大別して①行動面,②身体面,③感情面です。

①行動面・・・言動が粗暴になる,他者をいじめる,意欲がなくなる,など
②身体面・・・睡眠障害(寝つきが悪い,途中覚醒や早期覚醒),食欲低下または食欲亢進,味覚の異常(味がしない,おいしく感じない),排泄の不調(便秘や下痢)
③感情面・・・気分の落ち込み,イライラ,など。

年齢が低い場合には,まだ自分で自分の行動を客観視してコントロールすることがあまりできません。したがって,小学校の低学年~中学年くらいでは,「①行動面」に異常が現れやすい傾向があります。今までと比べて気になる様子が見られたらそれは緊張状態が一定期間以上持続しているサインと考えられます。

年齢が上がってくると,自分で自分の行動を理性的にコントロールすることが上手になってきます。そうすると,緊張状態が身体の不調に表れやすくなります。小学校高学年~高校生くらいでは,「②身体面」に異常が現れやすくなります。特に「睡眠」はサインとして現れやすい指標です。親も子どもがぐっすり眠れているかどうかあまり把握できていないことが意外と多いようです。日常の会話の中で「最近ちゃんと眠れている?」など子どもに確かめておくことは有効だと思います。

うつ状態というと「③感情面」が着目されがちですが,実は感情は自分自身でも把握しにくいものです。表情は笑っていても内面では落ち込んでいることもあります。したがって,ストレス状態の把握には「①行動面」「②身体面」を指標にして把握することが有効かと思います。

家庭と学校で早期発見・早期のケアを

不調に陥りかけたとき,多くの場合大人は「このままだと登校できなくなる」と考え初期には無理に登校刺激をしてかえって脳の疲労を蓄積させてしまいます。風邪の初期に無理をしてこじらせるのと同じです。上記のような状態が観察され場合には,無理をさせず早めに休養をとらせて脳の疲労回復を図った方がその後うつ状態に陥らず学校への適応もスムーズになります。

そのためには,家庭と学校で気になる点が観察されたらお互いにこまめに情報と対応の方向性を共有しておくことが必要だと思います。