現在SC(スクールカウンセラー)として学校現場で多くの子どもたちと交流させてもらっています。とてもまじめで好感のもてるお子さんが多い印象です。その一方で気になるのは,人の視線をとても気にする子どもが多いということです。
とらすと通信 2020年4号「無条件の肯定」
友達や先生からどう思われているかを気にするあまり,毎日緊張しながら生活している子どもがあまりに多い気がします。お互いに気をつかって生活しているため,表面的には仲良くしていても,ネットの世界では裏アカウントをつくり友達の悪口を書くことで何とかバランスを維持しているという子どももいます。気を遣うあまり疲労がたまって不登校などの状態におちいる子どももいます。
自尊感情の醸成
背景の一つとして,これまで書いてきたようにコミュニケーションスキルの年齢相応な発達が抑制されていることがあると思います。
背景のもう一つとして,子ども自身の自尊感情の醸成が十分でないことがあるのではないでしょうか。自尊感情とは「自分には価値があるという肯定的な感情」というような意味で使われますが,その感情の根本的なものを探ると「自分がこの世界に存在してよいという無条件の感覚」と言ってもよいのではないでしょうか。自尊感情が十分に育っていると,基底にしっかりとした安心感があるため感情的に落ち着いています。自分で自分を認めることができているので,人の視線や評価を過度に気にすることなく生活することができます。周りの人にも安心感を与えるため自然と人から好感をもたれる傾向があるようです。
条件つきの肯定と無条件の肯定
自尊感情を高めるためには「ほめて育てることが重要」とよく言われます。「ほめる」ということの前提には,「○○ができたら」という条件がついています。「お手伝いをしたら」「勉強をがんばったら」「かけっこで入賞したら」・・・などなどです。つまり「条件つきの肯定」ということです。
条件つきの肯定は,子どもにその示される方向に向かって努力することを促すという意味で教育的に効果のある方法です。一方で,条件つきの肯定ばかりが使われると,子どもの中には「条件がクリアできなかったときは肯定されない」という強い不安も形成されてしまうことになります。そうなると他者の評価に過敏にならざるを得ない自我を形成してしまうことになるでしょう。
本当に自尊感情を育てるためには,より根本的な要素として「無条件に子どもを肯定する」ことが必要です。無条件に肯定されるという環境の中で初めて子どもは「自分はこの世界に存在してよいのだ」という感覚を十分に醸成することができます。
無条件に肯定されるとは,たとえば,赤ん坊がお腹がすいたらミルクを与えてくれること,親が抱っこして笑顔で語りかけること,親と子がゆったりした気持ちで楽しい時間を共に過ごすこと,子どもの体調が悪かったら親が心配すること,などの場面として描写できると思います。そして,これらの場面は古来より親子の交流の中で自然に行われてきたものです。
親子の自然な交流の復権を
したがって,子どもの自尊感情を醸成するには,基底に「無条件の肯定」があり,その上で「条件つきの肯定」が使われる必要があります。残念ながら近年は「無条件の肯定」の力が弱まり「条件付きの肯定」のみが強くなってきている現状にあると思います。私たち大人はここでもう一度親子の自然な交流の中で生じてきた「無条件の肯定」という感覚を取り戻す必要があるのではないでしょうか。