とらすと通信

免疫体力が気力を支える

免疫体力の評価と,それに合わせたライフスタイルの工夫が重要です。

とらすと通信 2018年2月号 免疫体力が気力を支える

個人が保有する資源は主に「能力」と「時間」です。仕事や家事や子育てといったあらゆる社会的活動は能力と時間を使って行われます。場合によってはこれに「財」を加えることもできます。例えば家族の誰かが病気をして家事に投入する資源が不足するようになった場合でも,経済的な蓄えがあれば家事代行サービスを頼むなど,外部の資源を導入することが可能だからです。

能力に関しては様々な分類が可能です。ここでは,「知力」「体力」「潜在的被支援力」の3つに分類してみます。大雑把にいうと知力は主に頭脳を主体として使う能力で,体力は体を主体として使う能力です。潜在的被支援力とは,現在は具体的な形にはなっていなくてもその人を支える力として機能している,または今後機能する可能性がある力です。例えば,利害関係抜きでその人のことを心配してくれる人がたくさんいれば,それは現時点でその人を強くささえる力として機能しているでしょうし,将来困難に直面した場合には具体的にその人をサポートする行動をとって支えてくれるでしょう。

これらの能力の特徴などについてはこれからしばらく考えていきたいと思います。

免疫体力

今回は体力について考えてみたいと思います。体力は大別して「運動体力」と「免疫体力」とに分けることが可能です。この2つは通常同列に扱われていますが,分けて考えた方がよいと思います。運動体力はその名の通りスポーツなどの運動を行う体力です。免疫体力は基礎体力と言い換えてもいいかもしれません。免疫機能や体を動かす機能全般を下から支えている体力です。免疫体力が低下すると疲れやすくなり,気力も低下します。実はストレスへの対処も免疫体力がかなりの部分を担っています。ストレスというと心理的なものというイメージが強いですが,身体では交感神経の興奮や副腎ホルモンなどの分泌によりストレスに対抗するための反応が起こっています。つまりストレスはまず身体で対抗しているのです。それを担っているのが免疫体力です。したがって免疫体力が低下するとストレス対応能力も低下します。心理的には「気力が起こらない」という状態になるわけです。気力は「気持ちの問題」と思われがちですが,実は免疫体力の低下が主原因の場合が多々あります。

免疫体力は生まれつき個人差があるようです。また,ぜんそくや大きな病気・事故などを経験していると,免疫体力が低下します。その後の生活改善である程度の高さは維持できるようですが,根本的に改善することは難しいように思われます。

実は不登校になりやすい子どもの中にもこの免疫体力の低下が影響していると思われる事例はたくさんあります。「不登校は気持ちの問題」とみられがちですが,免疫体力が低いと強いストレスを一度に処理することは難しくなります。学校や家庭で特に勉強などのストレスが強くかかる環境だと免疫体力が追い付かず気力も低下してしまうことになります。その状態が長く続くと身体症状やうつ状態などに陥ってしまいます。

免疫体力は生まれ持ったものと生後の病歴などでかなり決まります。重要なことは,免疫体力の程度を把握して,それに合わせた生活パターンを工夫することです。例えば,強いストレスを一度に処理することが難しいのであれば,ストレスを分散化して,弱いストレスを時間をかけて処理することは可能です。高校生であれば,進学指導の厳しい学校で激しい競争にさらされるのは難しいとすると,単位制や通信制の高校で自分の免疫体力にあったペースで勉強していくことも可能です。目指す大学あったとしたら,計画的に勉強していくことで受験に合格することも可能でしょう。大人であれば,やるべき仕事を短時間に一度に処理するのではなく,時間を区切って少しずつこまめに処理していくという方法がとれます。

資源は有限である

資源について考える場合ポイントとなるのは,「資源は有限である(無限ではない)」ということです。体力は資源を使えば低下します。したがって,意志力だけで問題に対処しようとすると必ず無理が生じます。自分を含めて個々人の免疫体力を評価し,それに見合ったライフスタイルの工夫をすることが重要です。