人間のもつ能力は「知的能力」と「感性的能力」の2つに分けることが可能だと思います。OECDはこれを「認知能力」と「非認知能力」と呼んでいますが,指している内容は同じようなものです。
とらすと通信 2020年1月号「感性の教育」
決断の最終局面は「勘」です
先日,NHKで国連難民高等弁務官の代表を長く務められた緒方貞子さんの特集が放映されていました。緒方さんは,さまざまな難しい局面において,ルールや慣習に縛られることなく,人命尊重を第一に考えて行動され,結果として多くの難民の命を救ってこられました。インタビューの中で「代表として最終決断を下す際に何を基準にしていましたか?」という質問に対し「できるだけたくさんの情報を集めて判断材料にしますが,最終的には“勘”です。」と答えておられたのが強く印象に残りました。
この場合の「勘」というのは言い換えれば「感性」と言ってもいいのではないかと思います。おそらく,「人命を第一に考えるべき」ということは,理論的に導き出されたものではなく,緒方さんの内面深いところから生じる感性によって導き出された原理だったのではないかと推察します。だからこそぶれることなく一貫して人命を尊重する行動を実行することができたのだと思います。
感性の教育
緒方さんのように多くの人々の命にかかわるような重大な局面においてだけでなく,人生における様々な局面において同じことが言えるのではないでしょうか?私たちは理論によって生きているのではなく,最終的にはそれぞれの感性に従って人生における判断を下しています。教育においては「自分で考える力を育てることが重要」という言い方がされますが,「自ら考える力」とは,最終的には自分の内面の感性に照らし合わせて物事の判断を下せる力だと言ってよいのではないかと思います。
そして,感性の発達は,机の上で概念を操作することよりも,体を使った体験によってこそ発達します。体験とは,自然の中で駆け回る体験,集団で遊ぶ体験,親だけでない多くの人と交流する体験などです。今後そういう体験のできる環境はますます減少していく可能性があります。私たち大人は子どもたちの感性の発達に必要なことは何か今一度しっかり考えていく必要があるのではないでしょうか?