とらすと通信

「コミュニケーションのスキルとは」

ここで「コミュニケーションスキル」と呼んでいるものが何なのかを明確にしておきたいと思います。ここではコミュニケーションスキルを「人との良好な関係を形成し維持するスキル」と定義しておきます。そのために必要な下位のスキルとして「他者理解のスキル」「自己理解のスキル」「関係調整のスキル」の3つがあります。

とらすと通信 2019年11月号「コミュニケーションのスキルとは」

他者理解のスキル

「他者理解のスキル」とは,相手の考えや気持ちをできるだけ正確に理解するスキルです。相手の考えや気持ちが理解できなければ良好な関係は維持できません。このためには「話を聴くスキル」が必要です。

また,言葉の内容(言語情報)だけが相手の発している情報とは限りません。むしろ表情・身振り・言葉の抑揚などの情報(非言語情報)の方が相手の本当の考えや気持ちを表している場合が多いとも言えます。したがって「非言語情報を読み取るスキル」も必要です。よく「空気を読む」といいますが,それは非言語情報を読み取るということだと言ってよいと思います。

自己理解のスキル

「自己理解のスキル」とは,自分自身の考えや気持ちをできるだけ正確に理解するスキルです。相手と自分とは異なる人格ですから,当然考えや気持ちも異なっています。相手の考えや気持ちに合わせることに終始すると,表面的なトラブルは回避でき良好な関係が維持されているように見えますが,自分の中ではストレスが蓄積していくことになります。蓄積したストレスはいずれ何らかの問題となって表面化するでしょう。それを回避するために関係調整が必要になるのですが,その前提として自分自身の考えや気持ちをよく理解することが必要です。

自分のことだから自分自身がよくわかっているかというと,実は自分自身のことだからこそよくわからないということも結構あります。できれば日常的に自分の内面を振り返る時間をとる習慣をつけることが必要と思います。

関係調整のスキル

相手と自分の考えや気持ちを理解したら,その共通点と相違点(対立点)を整理します。そして,相違点(対立点)については調整することが必要です。それが「関係調整のスキル」です。

そして調整のために必要なのが「話し合いのスキル」と「妥協のスキル」です。自分の考えや気持ちが100%満足することは不可能です。もしそれを目指すことになれば,相手に多大な我慢を強いることになります。そこでお互いに妥協が必要になります。妥協点を探るための方法が話し合いです。
話し合いの際最も重要なことは,相手と自分の妥協が同じくらいのレベルになるような妥協点を見つけることです。そうすれば,「自分も我慢しなくてはいけないが,相手も同じくらい我慢するわけだから納得しよう」という気持ちになりやすく,不満を最小限に抑えることができます。いわゆる「痛み分け」です。人生において100%の満足を得ることはまずなく,常に痛み分けの中にあると言ってよいと思います。

妥協をすれば内面的は必ず多少の不満が生じます。この不満に対しては自分自身で内面的に折り合いをつけるしかありません。そのためのスキルが「妥協のスキル」です。妥協ができず自分の考えや気持ちを通そうとする人の態度は「わがまま」と呼ばれます。逆に,自分の考えや気持ちを過度に抑えてしまう人の態度は「過剰適応」です。どちらも外的・内的に問題を生じることになります。

成熟した自我の発達

このように見てくると,コミュニケーションのスキルには,様々な下位のスキルが必要になることがわかります。どれが欠けても円滑なコミュニケーションは成立しません。そして,「成熟した自我」とはこれらの下位スキルをバランスよく身につけた,高いコミュニケーションスキルを有する自我と言ってよいのではないでしょうか。

したがって子どもの発達を考えるとき,これらのスキルがバランスよく発達するように環境を整えることが必要になってきます。