とらすと通信

「子どものコミュニケーション能力の現状」

多くの学校で,教室内での人間関係のトラブルが頻発するようになりました。実感的には以前よりも数倍に増えている感覚です。背景に何があるのでしょうか?

とらすと通信 2019年10月号「子どものコミュニケーション能力の現状」

トラブルをめぐる学校の現状

子どもどうしのトラブルが生じると,当然ながら,先生方は個々のトラブルに対処しなくてはなりません。当事者の子どもを個々に呼んで話を聴き,お互いに話し合い機会を作ったり,クラス全体で話し合ったり,場合によってはカウンセラーや相談員などのスタッフに相談したりという作業が必要になります。
保護者への連絡も必須です。場合によっては保護者どうしの話し合いなどの場を設定する必要も生じます。保護者対応が必要な場合には,担任の先生だけでなく,教頭や校長などの管理職の先生方も関わらないと対応が難しくなります。保護者の中には過敏とも思える反応を示され攻撃的な感情が学校に向くこともままあります。学校としては保護者の感情にも配慮することが必要になります。特にこういうケースでは学校が投入すべきエネルギーは多大になります。
このような現状が,ただでさえ多忙な学校現場をさらに多忙にしています。結果として,教育活動に割けるはずの労力をトラブル処理に充てざる負えなくなり,学校の教育力を低下させる要因ともなっています。

コミュニケーション能力の発達阻害

背景には,子どもたちのコミュニケーション能力の発達阻害があると考えられます。コミュニケーション能力は上記のように学校生活上の問題となるだけではなく,子どもたちの将来においてさまざまな困難を引き起こします。家庭においても職業においても,生活の基盤が人間関係によって構築されることを考えると,これは極めて深刻な事態と言わざるをえません。
コミュニケーションのスキルは,机の上で概念的に学ぶものではなく,多くの人との交流の中で体験を通じて習得されるものです。しかし,現在は子どもが他の人と交流する場面が極めて少なくなっています。したがって,子どもにとってコミュニケーションのスキルを実践的に学ぶ機会が極度に減少し,能力発達の阻害が生じているものと思われます。

この問題は今までどの時代にも経験してこなかった新しい問題であり,非常に大きな教育課題だと思います。次回からしばらくこの問題について考察していきたいと思います。