ここまで,「資源供給理論」の概要について書いてきました。資源供給理論をもとに学校で子どもたちの支援を行う具体的な方法論が「資源調整アプローチ」です。これからしばらくは資源調整アプローチについて書いていきたいと思います。
とらすと通信 2019年2月号 「資源調整アプローチ」
資源の特性
これまで記述してきた資源供給理論から,資源の特性は次の5つにまとめることができます。
①資源は変換される。
②資源は増減する。
③資源は組織内で共有される。
④資源不足により個人に問題が生じる。
⑤資源不足により組織に問題が生じる。
資源は「②増減」します。資源の減少が増大を上回ると,「④個人や⑤組織に問題」が生じます。したがって,資源バランスの回復を図ることで問題の解消を試みることができます。
これらの原理をもとに行う,学校における子どもの支援が「資源供給アプローチ」です。具体的にその考え方を見ていきましょう。
自己資源と援助資源
子どもにとっての資源の状態は「自己資源」と「援助資源」に分けることができます。
「自己資源」は子ども自身が持っている資源です。これには「その時点での発育・発達の状態」「発達障害の有無」「体力の状態」「得意なことや趣味」などが含まれます。
「援助資源」は,子どもを取り巻く資源の中で子どもを援助している資源です。主に「家庭の資源」「学校の資源」「社会資源」の3つになります。
子どもの状態は,「自己資源」「援助資源」のバランスによって決まります。
例えば,発達障害のあるお子さんは,自己資源の一部に弱みがあります。障害のないお子さんに比べるとその部分に関して自己資源が少ないと表現することもできます。だからといって,発達障害のお子さんが必ず学校で様々な問題を抱えるとは限りません。ご両親,先生,友達など,周りの援助資源となる方々が,そのお子さんの特徴をよく理解し,手厚くサポートしていればあまり問題が表面化せず,楽しく学校生活を送ることは可能です。
逆に,発達障害もなく,体力も十分あり,成育歴上の課題もあまりないようなお子さんもいます。自己資源は十分ある状態です。しかし,そういうお子さんでも,学校でひどいいじめにあったら,登校できなくなることも当然あります。学校という援助資源がうまく機能しないからです。
このように,「現時点での子どもの状態」は,自己資源と援助資源のバランスによって決まります。通常子どもが問題を抱えたとき,その原因として「発達障害」や「いじめ」など,一つの要因にのみに注目しがちで,他の要因は無視することになりがちです。しかし,現実の問題というのは,さまざまな要因(資源の状態)が複合して生じています。したがって,複眼的な視点をもって全体をよく分析してみることが非常に重要です。
資源バランスの回復
その上で,対応を考えます。この場合に考えることは次の2点だけです。
①子どもをプラスに支えている資源は「維持・強化」をする。
②子どもにマイナスに影響している資源は,可能な限り「改善」を図る。
ここでポイントになるのは,対応策もできるだけ複数のポイントで検討し,できるだけたくさんのポイントで取り組むことです。
以上が資源調整アプローチの概要です。次回から各取組みのポイントについてご説明していきたいと思います。