とらすと通信

「資源は共有される」

前回までは「資源の変換」について書いてきました。資源は人と人との交流において,さまざまな形でお互いに変換されています。この原理から非常に重要な事柄が導き出されます。それは,「家族」や「学校」など,人が有機的に交流しながらまとまりを形成している組織においては「資源が共有される」ということです。

とらすと通信 2019年1月号 「資源は共有される」

家族内における資源の変換

家族の場合で考えてみましょう。通常子どもは親を信頼しています。特に子どもの年齢が低い場合には無条件に100%親を信頼しているものです。年齢が高くなってくると少しずつ変化はしますが,基本的には,子どもにとって親は自分を養育し保護してくれる,頼るべき存在です。親の側からすると,子どもが自分に向けてくれる信頼が自分自身の喜びとなります。つまりそれが親にとっての資源として働くわけです。親はそこで得られた資源をもとに仕事,家事,育児に励み,お金(財)や養育・教育などの資源を子どもに還元します。家族内ではこのような資源の変換(交換)がなされていると考えられます。

家族内における資源の共有

ところが,仕事が忙しいなど,家庭外において過度な資源消費が起こると,家族に還元すべき資源が枯渇してきます。そうなると,家族内にある資源を過度に家族外に持ち出すということが起こってきます。結果として親が子どもの資源を家族外へ持ち出してしまうということが生じるわけです。この状態では子どもが親の仕事の負担の一部を実質的に肩代わりしていることになります。短期間ならば何とかバランスを回復できるとしても,それが長期間続くと子どもに不調が現れてくることになります。頭痛や腹痛などの身体症状やうつ状態などの精神症状となることが多いようです。そうなると,子ども自身が対処すべき「学校に行って人と交流し,学習をする」ということに対処できなくなり,結果として不登校などの問題に陥ることになります。

このように,基本的には資源は個人のものではあるのですが,家族のような組織においては共有されるものでもあります。仕事で得られたお金(財)を家族内で共有して使うというのに似ているかもしれません。

子どもの不調は子ども個人の問題とは限らない

一般に,子どもが不登校などの問題を抱えている場合,子ども自身の生活上の課題や発達上の課題など,子ども個人の問題であるととらえられがちです。もちろん子ども個人の要因が大きい場合もあります。しかし,上記のような場合は,子ども自身の学校生活には特に問題がないことが往々にしてあります。また,多くの場合不登校などの状態に陥るしばらく前から,子ども自身の資源不足のため,学習成績の低下などの問題が表面化してきます。同じく人との交流にもうまく対処できなくなり,友達とのトラブルなども発生しやすくもなります。そういう場合,学習成績の低下や友達とのトラブルが不登校の原因ととらえられがちです。もちろんそれも原因となるのですが,根本的な原因として家族内の資源不足が潜んでいることが往々にしてあるわけです。

子どもを取り巻く資源のバランスをよく観察する

とらすと通信2018年1月号に書いたとおり,現代の家族は「核家族・共働き」という構造の変化により「少ない資源を大量に家族外に持ち出す」という形態になっています。つまり資源が不足しやすい状態が常態化しています。結果として子どもの資源を使って何とかバランスをとるということになりがちです。子どもが不登校などの不調に陥った場合には,子ども個人の課題を観察するだけではなく,家族全体の資源のバランスもよく観察し,改善を図ることが重要です。そうしないと「特に問題がないのに学校に行けないのは本人が怠けているからだ」という結論になり,子どもだけを責めるということになりがちです。結果として子どもはますます追い込まれ状態が悪化するでしょう。

そして,この対処法を実践するには学校と家族の相互理解と連携が必須です。