とらすと通信

「潜在的被支援力」は人生を支える最大の資源

この記事では資源を「知力」「体力」「潜在的被支援力」に分類しています。今回は「潜在的被支援力」について考えてみたいと思います。

とらすと通信 2018年4月号 「潜在的被支援力」は人生を支える最大の資源

「潜在的被支援力」とは,「現時点では形になっていないが,本人を外側から支えている力」です。「信頼できる人間関係」と言い換えてもいいかと思います。この場合の「信頼」とは「利害関係を超えた信頼関係」を意味しています。体力や知力が充実していて元気な時は特に問題なく過ごせますが,体力や知力が弱り病気をしたりしたとき,本当の意味で支えになってくれるのはやはり良好な関係の家族・親族やごく親しい友人などです。利害で結びついている関係では力になってくれるといっても限界があります。また,具体的な形にはなっていなくても,他者が日常的に向けてくれる信頼感や愛情は,あまり意識することはないものですが,実は常に自分を支える力として作用しています。親が子どもを心配する純粋な気持ちは子どもを素直に成長させる根本的な原動力になります。

潜在的被支援力はなかなか意識されにくいものですが,実は資源の中でも最も大きな力となるものだと思います。近年の社会学的な調査によると,家族や友人など信頼できる人間関係の豊富な人は,信頼できる人間関係が希薄な人に比べると,「寿命が長く」「幸福感が高い」ということがデータとしてはっきりと示されています。これらの事実は,潜在的被支援力が人生において非常に大きな力を発揮する資源だということを示しているといえるでしょう。

潜在的被支援力を強化するのは自分自身の行動

潜在的被支援力は,外から自分を支えてくれる力として作用します。そういう意味で「知力」や「体力」のように自分の内側から発揮される力と区別されます。しかし,潜在的被支援力は,自分から何も行動を起こさずに強化されることはありません。潜在的被支援力を強化するために重要なことは,身近な他者に対しその人の利益を考えて行動することであり,その際重要なポイントは,見返りを求めず純粋にその人のことを考えて行動することです。これは,自分自身が誰に対して信頼感を抱くかということを考えれば明らかなことです。

ある人が自分に利益のあることをしてくれたとします。しかしその行動が何らかの見返りを求めてのことであれば信頼感を抱くまでにはいたらないでしょう。自分のことを褒めてくれたとしても,それがセールストークであったのならば,何等かの代価を期待しての行動ということです。一方本当に自分のことを正当に評価し,その努力や成長を喜んでくれことから発せられた言葉であれば,それは相手に対しての信頼感を形成させるでしょう。

そう考えると,潜在的被支援力は自分自身が周りの人に対して日常的に起こしている行動によって強化されるものであり,例えれば貯蓄のようなものです。そう考えると潜在的被支援力の高い人はそれだけの行動を起こせる能力がある人だといえます。そういう意味では本人自身が内在している資源が転換したものと言い換えることもできるでしょう。

日本文化に眠っている主張の再評価を

仏教では,潜在的被支援力を高める行動を「徳を積む」あるいは「善業を積む」という言葉で表してきました。その際に重要なことは「見返りを求めず誠意をもって行う」といわれます。また,その行動は人に見せるためのパフォーマンスではなく,人が見ているかいないかに関わらずやるべきことをやることが重要だといい「陰徳を積む」と表現します。「情けは人の為ならず」という言葉もあります。これなどは潜在的被支援力の性質をそのまま表した言葉でしょう。自分の利益を主張し守ることが優先されがちな昨今の風潮ですが,それは本当の意味で自分自身の利益を守ることにはならないということだと思います。今一度我々の文化に眠っていた主張を再評価するべきではないでしょうか。